五者の教えとパーパス経営

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 近年、企業経営において「パーパス(存在意義)」が重視されるようになっています。利益だけでなく、社会的価値の創出や、従業員の働きがいなど、より深い目的意識に基づく経営が求められる時代において、五者の教えはパーパス経営の実践に有効なフレームワークとなり得ます。

パーパス経営とは

 パーパス経営とは、「なぜ我々はこの事業を行うのか」という根本的な問いに対する答え(=パーパス)を軸に、企業活動のあらゆる側面を方向づける経営手法です。単なる「何を作るか」「どう売るか」を超えて、「社会にどのような価値を提供するか」「人々の人生にどう貢献するか」という視点から事業を捉え直すものです。

 パーパス経営が注目される背景には、顧客や従業員、投資家など、あらゆるステークホルダーが企業に対して「意義ある存在」であることを求めるようになった社会変化があります。特に優秀な人材の獲得・定着や、持続可能なブランド構築において、明確なパーパスの存在が競争優位につながるとされています。

五者の視点からパーパス経営を実践する

「学者」としてのパーパス探求

 パーパスは単なるキャッチフレーズではなく、企業の歴史や強み、社会環境の分析に基づく本質的な洞察から生まれます。「学者」的アプローチでは、自社の創業の志や歴史的転機、現在の強みと社会課題の接点などを徹底的に研究し、真に自社らしいパーパスを見出します。社員や顧客、取引先など多様な視点からの「なぜ」の問いを深堀りすることで、表面的でない本質的なパーパスに近づくことができるでしょう。

「医者」としてのパーパス共感

 パーパスが組織全体に浸透し、日々の行動指針となるためには、一人ひとりが自分ごととして共感できることが重要です。「医者」的アプローチでは、社員の価値観や動機に寄り添い、パーパスと個人の志をつなげる対話を促進します。特に中間管理職が部下との1on1ミーティングなどで「このパーパスは、あなたにとってどんな意味がありますか?」といった問いかけを行うことで、個人レベルでのパーパス実践を支援できるでしょう。

「易者」としてのパーパス具現化

 パーパスは未来志向の概念であり、それを実現するための具体的な将来像と道筋が必要です。「易者」的アプローチでは、パーパスを軸に5年後、10年後の理想の姿を描き、そこから逆算した戦略や意思決定の指針を導き出します。特に、事業環境の変化や社会課題の変容を予測しながら、パーパスの本質を失わずに進化させていく視点が重要です。パーパスそのものは普遍的でも、その表現や実現方法は時代とともに変化していくものだからです。

「役者」としてのパーパス発信

 どれほど素晴らしいパーパスも、心に響く形で伝えられなければ力を持ちません。「役者」的アプローチでは、パーパスを魅力的なストーリーとして語り、社内外のステークホルダーの心を動かす表現を工夫します。抽象的な言葉だけでなく、具体的なエピソードや象徴的な事例を通じて、パーパスが実際にどのような違いを生み出すのかを伝えることが効果的です。特にリーダー自身がパーパスを体現し、自分の言葉で語ることの影響力は絶大です。

「芸者」としてのパーパス文化醸成

 パーパスを組織文化として定着させるには、日常的な実践と称賛の仕組みが不可欠です。「芸者」的アプローチでは、パーパスに沿った行動や決断を可視化し、称える文化を創ります。例えば、「パーパス実践賞」の設置や、朝礼での好事例共有、社内SNSでのパーパスストーリー投稿など、パーパスが生き生きと息づく場づくりを行います。また、採用や評価、報酬などの人事制度もパーパスと連動させることで、一貫性のある組織文化が形成されていきます。

パーパス経営における五者実践事例

 ある中堅メーカーでは、創業50周年を機に「人々の健康と地球の持続可能性に貢献する」というパーパスを再定義しました。そして、五者アプローチでパーパス経営の実践に取り組んだのです。

 まず「学者」として、創業の原点や歴史的転機を徹底的に研究し、自社の本質的な強みと社会課題の接点を分析。経営陣と若手社員の混合チームによる集中討議を通じて、真に共感できるパーパスを言語化しました。

 次に「医者」として、全社員との対話集会を開催し、パーパスの意味を共有すると同時に、一人ひとりの思いや懸念に耳を傾けました。特に中間管理職向けに「パーパス対話」のトレーニングを実施し、チーム内での継続的な対話を促進しました。

 「易者」としては、パーパスに基づく10年ビジョンと、3年ごとの中期計画を策定。特に新規事業や研究開発テーマの選定基準に、パーパスとの整合性を明確に位置づけました。

 「役者」としては、CEOが自らの言葉でパーパスを語るビデオメッセージを全拠点に配信。また、パーパスを体現する社員のストーリーを「パーパスヒーロー」として社内外に発信する取り組みも行いました。

 「芸者」としては、四半期ごとの「パーパス実践賞」の表彰や、パーパスに基づく社会貢献活動の拡充、採用面接でのパーパス共感度の重視など、パーパスが組織文化として根付く仕組みを導入しました。

 この総合的なアプローチにより、社員のエンゲージメント向上、採用競争力の強化、顧客からの支持拡大など、目に見える成果が現れ始めています。パーパスが単なる言葉ではなく、組織の意思決定や日常行動を方向づける羅針盤として機能し始めたのです。

 五者の教えとパーパス経営の親和性は非常に高く、相互に補完し合うものと言えるでしょう。五者のバランスの取れたアプローチによって、パーパスはより深く、広く、持続的に組織に浸透していくのです。