第三章 他者との「繋がり」が変わるコミュニケーション

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 前章では、人生の坂道や落とし穴から力強く立ち上がる「レジリエンス」という心の回復力について深く掘り下げました。自分の内側と静かに向き合い、心の持ちようを意識的に変えることで、私たちはどんな困難にもしなやかに立ち向かえる力を育める――それは、揺るぎない真実です。しかし、この内なる強さであるレジリエンスを、さらに大きく、もっと豊かなものへと育んでくれる秘訣があります。それは、私たちを取り巻く人々と織りなす「繋がり」の力だと、私は心の底から信じています。

 私たちは、けして孤立した存在ではありません。誰もが、誰かとの関係性の中に生きています。親しい家族や大切な友人、日々の業務を共にする職場の同僚たち、あるいは、旅先のカフェで偶然隣り合わせた見知らぬ人との、ほんの短い言葉のやりとりでさえ、私たちの心にはさざ波のような微細な影響を与え、様々な色合いを残していきます。日々の暮らしの中で交わされる一つ一つの言葉、ふとした瞬間に見せる表情、そして無意識に出る小さな仕草。これらがまるで細い絹糸のように丁寧に、しかし確実に織りなされ、私たち一人ひとりの世界を鮮やかに彩っていくのです。この目には見えないけれど確かな「繋がり」こそが、私たちが感じる喜びや悲しみ、成功や失敗といったあらゆる経験を分かち合う、かけがえのない土台となります。もし、今の自分の繋がりが少し希薄だと感じていても、どうか諦めないでください。ほんの少しコミュニケーションのやり方を見直し、心を傾けるだけで、皆さんの周りの人間関係は、驚くほど温かく、そして何よりも力強いものへと変化していく可能性を秘めているのですから。

 では、この「他者との繋がり」とは、一体どのようなものなのでしょうか。単に知り合いの数が増えることや、SNSのフォロワー数を増やすことだけを指すのではありません。私が考える繋がりとは、お互いの存在を深く認め合い、心から尊重し、そして困った時には迷わず手を取り合い、互いに支え合うことのできる――そんな根源的な関係性のことを指します。たとえば、職場でいつもと様子が違う同僚の姿を見かけたら、忙しい手を止めて「何か手伝えることはありませんか?」と、心からの気遣いを込めてそっと声をかけてみる。あるいは、深い悩みを打ち明けてくれた友人の話を、何も口を挟まず、ただひたすらに、ただ静かに耳を傾ける。普段は照れくさくてなかなか言えないけれど、大切な家族に「いつもありがとう」と、素直な感謝の言葉を伝えてみる。そうした、一見すると小さな、取るに足らないように思える一つ一つの行動が、まるで細い絹糸を紡ぐように、お互いの心を確かに結びつけ、かけがえのない絆を育んでいくはずです。このような温かい繋がりがあればこそ、私たちはどんなに厳しい困難に直面した時でも、「ああ、自分は決して一人じゃない」と心の底から感じられ、再び前向きな気持ちで立ち上がることができるのでしょう。

 この大切な繋がりを育み、さらに強固なものにしていく上で、最も重要な要素の一つが「コミュニケーション」であることは間違いありません。コミュニケーションは、単に情報や用件を交換するための道具ではありません。それは、お互いの感情や複雑な考えを分かち合い、深い理解を築き、最終的には揺るぎない信頼関係を織り上げていくための、まさに魔法のような働きをしてくれます。ここで一つ、具体的な場面を想像してみてください。もしあなたが、今取り組んでいるプロジェクトが思うように進まず、重いプレッシャーを感じているとしましょう。その時、決して一人で抱え込まずに、勇気を出して上司や信頼できる同僚に相談してみたらどうでしょう。彼らから、自分一人では気づけなかったような思いがけない視点や、具体的な解決策を提示され、状況が一気に好転することもあるかもしれません。この経験こそ、コミュニケーションが「繋がり」を強め、目の前の問題を解決へと導いた、生きた証拠だと言えるでしょう。

 それでは、どうすれば、私たちの日常的なコミュニケーションが、他者との繋がりをより深く、そして豊かなものにする力を持つことができるのでしょうか。これから、そのためのいくつかの大切な心がけについて、皆さんにお話ししていきますね。どれも、今日からすぐに実践できる、心の温まるヒントばかりです。

心を込めて「聴く」〜アクティブリスニングの奥深い力

 私たちはつい、自分が言いたいことや、次に話すべきことばかりを頭の中で忙しく巡らせてしまいがちです。しかし、実は「聴く」ことこそが、人とのコミュニケーションの強固な土台を築き、繋がりを驚くほど深くする第一歩となるのです。相手の話にただ耳を傾けるだけでなく、その言葉の奥に隠された相手が本当に伝えたいメッセージは何なのか、今どんな気持ちでいるのかを、心から理解しようと全力を傾けること。これが「アクティブリスニング」、日本語では「積極的傾聴」と呼ばれる、非常にパワフルなコミュニケーションスキルです。

 例えば、あなたの親しい友人が「最近、仕事でなかなか思うような成果が出なくて、正直、少し落ち込んでいるんだ…」と、いつもの明るさを失い、少し顔を曇らせながら打ち明けてくれたとしましょう。そんな時、すぐに「大丈夫だよ、君ならきっとできる!頑張ればうまくいくさ!」と、善意からの励ましの言葉をかけるのも、もちろん優しい行為です。ですが、その前に一呼吸置いて、「そっか、それは辛いね。具体的にどんなことが一番大変だと感じているの?」「その時、君はどんな風に思ったのかな?」と、相手の言葉のさらに奥にある感情や、その状況をもう少しだけ深く掘り下げて聴いてみてください。友人の話の途中で、さりげなく「うん、うん」と相槌を打ったり、相手が使った印象的な言葉をそっと繰り返したりする「オウム返し」も、実は相手に「きちんと聴いているよ」というメッセージを伝える、とても効果的な方法です。きっと友人は、「ああ、この人は僕の話を本当に真剣に、自分のことのように聞いてくれているんだな」と感じ、深い安心感と揺るぎない信頼を覚えるはずです。そうして、表面的な言葉のやり取りだけではない、心と心が深く通い合う本質的な繋がりが、ゆっくりと、しかし確実に育まれていくのではないでしょうか。

共感の心で寄り添う〜相手の感情に触れ、共に感じる

 相手の話を心を込めて聴く中で、次に私たちの心に芽生え、育んでいきたいのが「共感」というかけがえのない感覚です。共感とは、相手の感情や複雑な考えを、あたかも自分自身のもののように受け止め、深く理解しようと努めること。単に「かわいそう」と思う同情とは一線を画し、相手の立場に自らを置き、その目に映る世界を共に眺め、その心に去来する感情に寄り添うことで、心と心の距離は驚くほど縮まります。まるで、雨上がりの空にかかる虹のように、二つの心が七色の光で繋がっていくようなものです。

 再び、具体的な場面を想像してみましょう。もしあなたのお子さんが、学校から帰ってくるなり「今日の給食、嫌いなピーマンがたくさん入ってたから、ほとんど残しちゃった…」と、肩を落としてしょんぼり話してきたとします。その時、反射的に「もう!ちゃんと食べなきゃダメでしょ!野菜嫌いは克服しなさい!」と、正論で叱りつけてしまうのも一つの反応かもしれません。しかし、ここで一呼吸置き、まずは「そっか、嫌いなピーマンが給食に出てきてしまったんだね。がっかりした気持ち、よく分かるよ。食べたくない気持ちになったんだね」と、その子の感情を丸ごと、まずは否定せずに受け止めてあげてください。そうすれば、お子さんは「ああ、ママ(パパ)は僕の気持ちを理解してくれているんだ」と感じ、親との間に確かな心の絆を感じるはずです。共感の心は、まるで相手の心に安心と信頼という名の温かい橋を架けるようなもの。その橋の上で、私たちは初めて安心して自分の感情をさらけ出し、分かち合えるようになるのです。

「私メッセージ」で率直に伝える〜自分も相手も大切にする自己表現

 もちろん、相手の言葉に耳を傾け、共感の心で寄り添うことは、人との繋がりを深める上で極めて大切です。しかし、それと同時に、私たち自身の正直な意見や感情を、臆することなく伝えることも、健全でバランスの取れた繋がりには決して欠かせません。ただ、その伝え方を一歩間違えれば、意図せず相手を深く傷つけてしまったり、思わぬ誤解を生んでしまったりすることもあります。そこで、私たちのコミュニケーションをより円滑にし、お互いを尊重した関係を築く上で、非常に役立つのが「私メッセージ」という画期的な方法です。

 「私メッセージ」とは、「あなたが〜したから、私は〜と感じた」「私は〜してほしい」というように、自分の内側の感情や、個人的な考えを、「私」を主語にして穏やかに、しかし明確に伝えるやり方です。たとえば、待ち合わせの時間にいつも遅れてくる友人に、思わずイライラして「あなたはいつも遅刻するから本当に困る!」「いい加減にしてほしい!」と、相手を一方的に責めるような「あなたメッセージ」で伝えてしまいたくなるかもしれません。しかし、そこをぐっとこらえて、次のように伝えてみてください。「あなたが待ち合わせに遅れてくると、私はもしかしたら何かあったんじゃないかと少し心配になってしまうし、待っている時間がとても長く感じてしまうんだ」と。こうすることで、相手は頭ごなしに責められているとは感じにくくなり、私たちの素直な気持ちや、その裏にある心配の念を、より受け止めやすくなるはずです。自分の感情やニーズを穏やかに、しかし明確に伝えることで、お互いを尊重しながら、きっと建設的な関係を築いていくことができるでしょう。この「私メッセージ」は、まるで自分の心の内側から湧き出る水を、相手の心に優しく注ぎ込むような、そんなコミュニケーションの技術なのです。

言葉以外のメッセージも大切に〜非言語コミュニケーションが語ること

 コミュニケーションは、決して言葉だけで完結するものではありません。私たちが発する言葉は、全体のメッセージの一部に過ぎないのです。私たちの表情、目の動き一つ、手のひらを広げる身振り手振り、声の抑揚やトーン、そして立っている姿勢や座っている態度——これら言葉以外の要素、いわゆる「非言語コミュニケーション」も、私たちの内側の感情や、真の意図を相手に伝える上で、非常に大きな、時には言葉以上の役割を果たします。非言語のサインは、まるで言葉の裏側にある本音を映し出す鏡のようなものです。

 例えば、あなたが誰かと真剣な話をしている最中に、相手が腕をしっかりと組み、なかなか目を合わせようとせず、終始うつむき加減でいるとしたらどうでしょう。たとえ口では「うん、分かったよ」「異論はないよ」と言っていても、その非言語のサインからは、どこか不満や抵抗を感じているのかもしれませんね。言葉と行動が食い違っている時、私たちは無意識のうちに、非言語のメッセージの方をより信頼してしまいがちです。逆に、あなたが誰かと話す時に、柔らかい笑顔を向け、相手の目をしっかりと見つめ、小さく頷きながら相槌を打つ。そうするだけで、「あなたに心から興味があります」「あなたの話を大切に聴いています」「あなたのことを信頼しています」という、温かくポジティブなメッセージを、言葉にせずとも相手に伝えることができます。私たち自身も、誰かと話す時、こうした非言語のメッセージの力によって、相手との間にふわりと温かい空気が流れ、心が通じ合ったと感じた経験がきっとあるのではないでしょうか。言葉のメッセージと非言語のメッセージが一つに重なり、調和した時、私たちの想いはより深く、より正確に相手の心へと届き、強い繋がりを育むための大きな助けとなるでしょう。それはまるで、美しい音楽がハーモニーを奏でるように、私たちのコミュニケーションに深みと豊かさをもたらすのです。

 コミュニケーションは、私たちが他者と心を通わせ、共に生きるための、本当に素晴らしい手段です。そして、そのコミュニケーションの質が変わることで、私たちの周りの「繋がり」は、まるで命を吹き込まれたかのように生き生きと変化し、成長していくものです。今日、皆さんと一緒に辿ってきたいくつかの大切な心がけ――心を込めて「聴く」こと、共感の心で「寄り添う」こと、「私メッセージ」で率直に伝えること、そして「非言語のメッセージ」も大切にすること。これらを、皆さんの日々の生活の中でほんの少しだけ意識し、実践してみるだけで、きっと皆さんの人間関係は、今よりもずっと深く、豊かに、そして何よりも温かいものになっていくはずです。さあ、勇気を出して、今日から一歩足を踏み出してみましょう。皆さんの周りにいる大切な人々との「繋がり」を、ぜひ皆さんの手で、もっともっと輝かせていってほしいと、心から願っています。