時間の非対称性

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物理学において、時間の非対称性は宇宙の根本的な特性の一つと考えられています。私たちが日常で経験する時間の一方向性は、微視的な物理法則と巨視的な現象の間の興味深い関係を示しています。

時間の矢印

時間は常に未来へと進む一方通行の道です。過去に戻ることはできません。物理学では、この不可逆性を「時間の矢印」と呼びます。この矢印は、熱力学第二法則、エントロピー増大の法則に基づいています。宇宙の膨張、放射線の放出、化学反応など、多くの自然現象がこの時間の矢印を示しています。アーサー・エディントンが1927年に導入したこの概念は、現代物理学の重要な柱となっています。

エントロピー増大

エントロピーは、系の乱雑さの度合いを表す物理量です。時間の経過とともに、エントロピーは増大し、系はより乱雑になります。この乱雑化の過程は不可逆であり、過去への逆戻りは不可能です。たとえば、コーヒーに入れたミルクが自然に分離することはありません。ルートヴィヒ・ボルツマンによって数学的に定式化されたエントロピーの概念は、分子の配置の可能な状態数の対数に比例します。宇宙全体のエントロピーは、ビッグバン以来常に増大し続けており、これが時間の矢印の方向を決定づけていると考えられています。

熱力学第二法則

熱力学第二法則は、孤立系において、エントロピーは常に増大する、あるいは一定に保たれることを述べています。これは、時間の非対称性を説明する重要な法則の一つです。この法則は、熱が高温から低温へと自然に流れることや、仕事がすべて熱に変換できるのに対し、熱はすべて仕事に変換できないことを説明します。クラウジウスやケルヴィンらの先駆的な研究により確立されたこの法則は、熱機関の効率に上限を設け、永久機関の不可能性を示しています。日常生活では、物が自然に整理されることがなく、常に散らかる傾向にあることも、この法則の現れといえるでしょう。

これらの概念は、物理学の分野を超えて哲学や宇宙論にも影響を与え、「時間とは何か」という根本的な問いに対する私たちの理解を形作っています。ミクロな世界の量子力学では時間の可逆性が見られる一方で、マクロな世界では不可逆性が支配的であるという対比は、現代物理学の興味深いパラドックスの一つです。