エスノグラフィー:消費者の日常に潜むインサイト
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エスノグラフィーは、消費者の実際の生活環境での行動を観察する調査手法です。人々は自分の行動について話すとき、理想化したり合理化したりする傾向がありますが、エスノグラフィーでは実際の行動を直接観察することで、言葉にされない習慣やニーズを発見できます。
例えば、キッチン用品の開発では、実際の調理シーンを観察することで、インタビューでは出てこなかった使いづらさや工夫が見えてきます。観察のポイントは、「予定調和を疑う」姿勢です。消費者が苦労している場面、improvising(その場しのぎの工夫)をしている場面、矛盾した行動をしている場面に注目することで、価値あるインサイトが得られます。
エスノグラフィーの主な手法
- 参与観察:研究者が消費者の日常生活に一定期間参加し、生活習慣や行動パターンを内側から理解します
- シャドーイング:消費者の一日に密着し、商品との関わり方を時系列で詳細に記録します
- ビデオ観察:カメラを設置して長時間の行動を記録し、後で詳細に分析します
さらに有効なのは、観察と他の手法を組み合わせるアプローチです。例えば、スーパーマーケットでの買い物行動を観察した後、その場でミニインタビューを行うことで、「なぜその商品を手に取り、別の商品を戻したのか」といった判断プロセスを鮮度の高いまま聞き出せます。
企業事例としては、P&Gが新興国市場向け製品開発において、現地の家庭に研究者が数日間滞在し、水の使用状況や洗濯習慣を観察したことで、水使用量を最小限に抑えた洗剤の開発につながりました。
実施における注意点
エスノグラフィーを成功させるには以下の点に留意する必要があります:
- 観察者バイアスを意識し、先入観を持たずに観察する
- プライバシーと倫理的配慮を徹底する
- 単なる「行動の記述」に終わらせず、背景にある文化や価値観との関連を探る
- 一般化できるインサイトと個別性の高い発見を区別する
デジタル技術の発展により、オンライン上での行動を観察する「デジタルエスノグラフィー」も注目されています。SNSでの投稿行動やウェブサイトでの閲覧パターンなど、デジタル空間での「生活習慣」からも貴重なインサイトが得られるようになっています。