第46章:学びと仕事のつながりが未来をひらく

Views: 0

 私たちは今、世の中がどんどん変わる時代に生きています。技術が進化し、社会の仕組みも、人々の考え方も多様になる中で、これからの未来を支える人たちをどう育てるかが、社会全体にとってとても大切な課題です。

 この大切なことを考えるとき、学校での「教育」と、社会での「仕事(雇用)」を別々に考えるのではなく、車の両輪のように、お互いにしっかり協力し合うことが何よりも大切です。具体的な仕組みを作っていく必要があります。なぜなら、学生さんがスムーズに社会に出て、そこで働き始めてからも一生学び続け、成長できるような、途切れない「学びと仕事のつながり」を作ることが、一人ひとりの人にとっても、会社にとっても、そして社会全体にとっても、明るい未来を作るカギになるからです。

 今の日本では、残念ながら、学校での学びと会社での仕事が、まるで違う二つの仕組みのように別々に動いている場面が多く見られます。このバラバラな状態が、色々な問題を引き起こしています。

  • 今の課題:学びと仕事の間に大きなズレ 皆さんも経験があるかもしれませんが、「学校で一生懸命勉強したことが、いざ社会に出てみたらあまり役に立たなかった」「会社が求める能力と、大学で教わる内容が大きく違う」という声は少なくありません。 例えば、最近のIT技術を必要とする会社が多いのに、学校の授業がそれに追いついていないことがあります。また、実際に人と話したり、問題を解決したりする力が求められるのに、授業ばかりで実践的な学びが少ない、といった状況です。このようなズレは、学生さんが就職活動で苦労したり、会社が欲しい人材になかなか出会えなかったりする原因になります。その結果、せっかくの若い人たちの可能性が十分に活かされないという、とてももったいない状況が生まれています。
  • 協力するメリット:連携が生み出す良い結果 もし、学びと仕事がもっと協力し合ったらどうなるでしょうか? 会社が実際に求めることや、最新の技術の流れが、学校の授業にすぐ反映されるようになります。 会社は、未来の働き手に必要な能力を具体的に学校に伝え、学校はその期待に応える形で、役に立つ学びを提供できるようになるでしょう。これは、会社が本当に欲しい人材を効率よく見つける手助けになります。学生さんにとっても、「社会で役立つ力」を身につけながら学べるという大きなメリットがあります。学校が持つ専門的な知識や研究の成果を、会社の人材育成プログラムに活かすこともできます。このように、学びと仕事が双方向で情報を交換し、協力し合うことで、それぞれが単独では生み出せないような大きな相乗効果(良い結果が何倍にもなること)が期待できます。
  • 一生学び続ける社会へ:学びの楽しさと強さ さらに大切なのは、「学校を卒業したら勉強は終わり」という古い考え方を変えることです。世の中の変化が激しい現代では、一度身につけた知識や能力だけでは、すぐに古くなってしまう可能性があります。 だからこそ、社会に出てからも、仕事の状況や自分の将来の目標に合わせて、必要な時に必要なことを学び直せる環境が欠かせません。学校と会社が手を取り合い、誰もがいつでも気軽に「学び直し」(リカレント教育と言います)ができるようなプログラムを提供することで、私たちは一生涯、自分の価値を高め続け、どんな変化にも柔軟に対応できる「一生学び続ける社会」を実現できるでしょう。これは、個人のキャリア(仕事の経験)を豊かにするだけでなく、会社の成長、ひいては社会全体の発展にもつながる、とても意味のある取り組みです。

 では、具体的に学びと仕事のつながりを深めるためには、どのような方法があるでしょうか? ここでは、特に効果的な四つのアプローチ(取り組み方)について詳しく見ていきましょう。

  • 学校の授業内容に会社の意見を積極的に取り入れる 学校、特に専門的なことを深く学ぶ大学の学部や専門学校の授業内容を決める際に、会社の担当者がもっと積極的に関わっていくべきです。例えば、IT企業がプログラミング講座の内容についてアドバイスしたり、物を作る会社のエンジニア(技術者)が最新の設計技術を教えたりするようなイメージです。これにより、学校で学ぶ内容が、職場で本当に役立つ「生きた知識」となり、学生さんは卒業後すぐに即戦力(すぐに活躍できる人)として働けるようになります。会社側も、未来の従業員がどんな能力を身につけて卒業してくるのかを事前に知ることができるため、採用後に「思っていたのと違う」というミスマッチを防ぐことができます。
  • インターンシップを充実させ、質を高める 学生さんが実際に会社で働く体験をするインターンシップは、とても貴重な学びの機会です。これをただの会社説明会や採用活動の一部としてではなく、学校の授業の一つとして、もっと本格的に位置づけるべきです。 例えば、数週間から数ヶ月にわたる長期インターンシップを必須科目とし、学生さんには具体的なプロジェクトに参加してもらいます。会社は学生さんに面倒を見る先輩(メンター)をつけ、丁寧なアドバイスを提供することで、学生さんは社会人としての礼儀や実践的な能力を効果的に身につけることができます。これにより、学生さんは自分の将来の仕事についてよりはっきりとイメージすることができ、会社は将来有望な人材を早く見つけて、育てるチャンスを得られます。
  • 学び直し(リカレント教育)を充実させる 社会人になってからも、自分のキャリアを良くするために、あるいは新しい分野に挑戦するために、学び直したいという思いは非常に高まっています。これに応えるために、会社と学校が協力し、社会人が働きながらでも学びやすい、柔軟な教育プログラムを開発・提供することが重要です。 例えば、週末や夜間、オンラインで学べる講座を増やしたり、会社のニーズに合わせて特別に作られた研修プログラムを一緒に開発したりすることが考えられます。これにより、従業員は常に最新の能力や知識を身につけることができ、会社は従業員の成長を通じて、組織全体の生産性(仕事の効率)を高めることができます。
  • キャリア教育を早い時期から手厚くする 学生さんが早い段階から「働くこと」の意味や、世の中にどんな仕事があり、どのようなキャリア(仕事の経歴)の道があるのかを知る機会を提供することは、非常に重要です。小学校や中学校の段階から、様々な仕事をしている大人との交流の機会を設けたり、実際に会社を訪問したりする体験学習を取り入れるべきです。 また、高校や大学では、自分自身を深く知る(自己分析)ことで、自分の興味や得意なこと(適性)を理解し、将来のキャリアプランを自分で考える力を養うためのプログラムを強化します。これにより、学生さんは「なんとなく就職する」のではなく、自分の意思で、自分に合った道を選び、生き生きと働くことができるようになるでしょう。

学校が果たすべき大切な役割

 学校は、社会の変化に対応し、未来を担う人たちを育てるために、たくさんの役割を担っています。これまでの「知識を教える」という一方的な役割だけでなく、社会とのつながりを増やし、より実践的(実社会で役立つ)な学びの場を提供していくことが求められています。

  • **会社のニーズをしっかりつかみ、授業に生かす**: 会社と定期的に話し合い、どんな能力や知識が今、そして未来に必要とされているのかを常に新しくして、授業内容に活かしていく必要があります。
  • **実践的な授業を提供する**: 授業で聞くだけでなく、PBL(プロジェクトをもとに学ぶこと)やケーススタディ(事例研究)、実習など、学生さんが実際に手を動かし、考え、問題を解決する力を養う授業を強化します。
  • **社会人を受け入れる準備を整える**: 学び直したい社会人のニーズに応えるため、社会人が学びやすい時間帯や方法(オンライン、短期間集中など)での講座を増やし、学校に入学したり授業を受けたりする手続きも簡単にしたりと、門戸(機会)を広げる努力が必要です。
  • **キャリアサポートを強化する**: 学生さん一人ひとりの個性や希望に合わせた、ていねいなキャリアカウンセリングや、卒業生のつながりを活用した就職サポートなど、様々な方法で支援する体制を作ります。
  • **会社と継続的に話し合い、協力する**: 一度きりの交流で終わらせず、一緒に研究したり、プロジェクトを進めたり、先生が会社で研修を受けたりするなど、様々な形で会社との関係を深め、信頼関係を築いていくことが重要です。

会社が果たすべき大切な役割

 会社もまた、ただ人材が来るのを待つだけでなく、未来の人材を「一緒に育てる」という考え方を持つことが欠かせません。学校との協力を通じて、会社の成長だけでなく、社会全体が元気になることにも貢献できます。

  • **学校へ専門家を派遣したり、一緒に研究を進めたりする**: 会社の専門家が大学で教えたり、学校の研究者と一緒に新しい技術開発に取り組んだりすることで、授業内容の質を高めることに貢献できます。
  • **質が高く、実践的なインターンシップを提供する**: 学生さんにただ見学させるだけでなく、実際の仕事に深く関わる機会を与え、面倒を見る先輩(メンター)を配置するなど、本当の学びにつながるプログラムを提供します。
  • **社員の学び直し(リカレント教育)サポートを強化する**: 従業員が新しい能力を身につけるための時間やお金のサポートを提供したり、学校と協力して専用の研修プログラムを開発したりするなど、積極的に投資を行います。
  • **授業内容に役立つ提案や意見を伝える**: 学校に対して、自社や業界が求める人材像や必要な能力について具体的に伝え、授業内容を良くするための協力は惜しまない姿勢が求められます。
  • **採用基準を分かりやすくし、多様な人材を評価する**: 学歴や専門分野だけでなく、インターンシップでの実績、自分で学んだ経験、将来性など、様々な面から学生さんを評価する基準を設け、多様な人材(色々な個性を持つ人)を大切にします。

 学びと仕事のつながりを強くすることは、決して一部の会社や学校だけの話ではありません。これは、私たち一人ひとり、そして社会全体に計り知れないメリット(良いこと)をもたらす、未来への大切な投資です。

 個人は、自分の興味や得意なことに合った仕事をより自由に選べるようになり、仕事を通じて自分らしさを実現する喜びを感じることができます。会社は、常に変わる事業の状況に対応できる、質の高い、そしてやる気にあふれる人材を安定して確保できるようになり、持続的な成長の力(原動力)を得ることができます。そして社会全体としては、一人ひとりの能力が最大限に引き出され、新しいアイデアや技術(イノベーション)が次々と生まれ、生産性が高まるという良い循環が生まれるでしょう。誰もが自分らしく輝ける、活気に満ちた社会の実現につながるのです。

 人事労務担当者の皆様は、この大切な協力の最前線に立つ、まさにカギとなる人です。貴社と学校との間にしっかり橋を架け、そのつながりを深める「橋渡し役」として、積極的にこの取り組みを進めていただきたいと心から願っています。学校現場の声に耳を傾け、貴社が本当に求める人材像や、社会の変化に対応するために必要な能力について、具体的に学校に伝えてください。

 その対話と協力(協働)を通じて、やがてはより効果的で、より実践的な「人材育成の仕組み」が確実に生まれていくはずです。学びと仕事をつなぐことは、一時的な出費ではなく、未来への確かな投資です。私たち一人ひとりが、そして社会全体で、手を取り合って未来の人材を育て、より良い社会を共に創り出していきましょう。その一歩が、きっと大きな未来につながるはずです。

成功のヒント:大切なポイント

 学びと仕事の連携をうまくいかせるためには、いくつかの大切なポイントがあります。これらを意識して取り組むことが、成功へのヒントになります。

  • **はっきりとした共通の目標を持つこと**: 学校と会社が「どんな人を、なぜ育てるのか」という共通の目標を具体的に決めて、お互いに共有することがとても大切です。
  • **情報をいつも交換し続けること**: 一度きりの情報交換ではなく、定期的な話し合いやワークショップを通じて、最新のニーズや学校の状況を常に共有し続ける仕組みが必要です。
  • **実践的な結果を大切にすること**: 授業で聞くだけでなく、インターンシップや共同プロジェクトなど、学生さんが実際に何かを作り出す機会を増やし、その評価を連携がうまくいっているかの基準とします。
  • **先生方のスキルアップを支援すること**: 会社の専門家が学校の先生向けに研修を行うなど、先生方が最新の業界知識や技術を学べる機会をサポートすることも重要です。
  • **長い目で見て真剣に取り組むこと**: 短い期間での結果だけでなく、未来を見据えた長い目で見て、継続的に資源を使い、関係性を築いていく覚悟が必要です。

直面する壁:乗り越えるべき課題

 一方で、学びと仕事の連携を強化するには、乗り越えるべき課題や、考えられる反対意見も存在します。これらにどう向き合うかが、本当の成功を決めるでしょう。

  • **学校側の資源(人手や予算)が足りないこと**: 授業内容を変えたり、会社との連携を強めたりするには、先生方の負担が増えたり、予算が必要になりますが、多くの学校はすでに資源が足りていて大変な状況です。
  • **会社が短期的な結果を重視しすぎること**: 会社が採用や短い期間での業績アップを重視しすぎるあまり、長い目で見た人材育成への投資や、学校との連携に積極的になれない場合があります。
  • **倫理的・公平性の問題**: 特定の会社の影響力が授業内容に偏りすぎたり、特定の学生さんだけに有利な機会が集中したりするなど、公平性(みんなが平等であること)に関する心配が出てくる可能性があります。
  • **「学び直し」への意識の差**: 従業員や社会人の中に、お金や時間の制約、あるいは学びの必要性を感じないといった理由から、学び直し(リカレント教育)にあまり意欲がない人がいる可能性があります。
  • **評価基準が多様化することへの抵抗**: 採用する側が、従来の学歴や偏差値といった分かりやすい基準に頼りがちで、インターンシップの経験や多様な学びの成果をきちんと評価する仕組みがまだ十分にできていない、という課題もあります。