第2章:未来人材ビジョンの背景と目的
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私たちが暮らす現代は、大きな変わり目の時代を迎えています。昔の産業革命と同じくらい大きな変化の波が、社会や経済、そして私たちの働き方を大きく変えようとしています。
この変化を進める大きな力が、「デジタル化の進展」と「脱炭素化の取り組み」という2つの大きな流れです。これらは、たんに技術や環境の問題だけでなく、日本の未来を左右する大切な問題であり、同時に新しいものを作り出す大きなチャンスでもあります。
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未来を形作る大切なポイント
未来人材ビジョンが生まれた背景には、大きく分けて3つの大切な世の中の動きがあります。これらをよく知ると、なぜ今、人材を育てること(人材育成)がこれほどまでに注目されているのかが分かります。
1. デジタル技術のすごい進化
スマートフォンやインターネットは、もう私たちの生活に欠かせないものになりましたね。でも、その進化は止まりません。
例えば、AI(人工知能)はChatGPTのような「生成AI」の登場で、ぐっと身近なものになりました。たくさんのデータを分析する「ビッグデータ分析」は、会社の戦略に欠かせません。家電や車など、いろいろなモノがインターネットにつながる「IoT」は、工場や町の様子を変えています。そして、インターネット上のサービスを使う「クラウドコンピューティング」は、情報の土台として当たり前になりました。
これらの技術は、まるで魔法のように私たちの毎日や仕事を大きく変えています。これまで人が手作業でやっていたデータの入力や分析がAIに任せられたり、遠くからでもリアルタイムで機械を動かせるようになったり。その影響は本当に様々です。
会社にとっては、これらのデジタル技術をどううまく使って、自分の会社のやり方(ビジネスモデル)を新しくできるかが、生き残るための大切な鍵です。たんに道具(ツール)を使うだけでなく、それを使って新しいサービスを作ったり、お客さんの体験をもっと良くしたり、全く新しい市場を開拓したりする考え方が求められています。
このデジタル化の流れに乗り遅れてしまうと、会社の競争力が下がってしまうことにつながりかねません。まさに「すぐに取り組まなければならない」状況なのです。
2. 世界中で進む「脱炭素化」の動き
地球温暖化という目の前の大きな問題に対して、世界中の国々が「カーボンニュートラル」という目標を掲げています。これは、温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出を実質ゼロにすることを目指すものです。この大きな目標を達成するために、産業界全体で大きな変化が起きています。
これまで石油や石炭などの「化石燃料」に頼っていたエネルギーの仕組みから、太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」へと変えていく。車をガソリン車から「EV(電気自動車)」にする。工場の電気使用量を減らしたり、二酸化炭素を出さない新しい作り方を開発したりと、あらゆる分野で「環境に優しい(グリーンな)」変化が求められています。
これは、たんに環境のルールが厳しくなるという話ではありません。たとえば、これまでガソリン車を作ってきた自動車メーカーは、電気自動車の技術開発にたくさんお金をかけ、部品を作る会社から製品を届けるまでの仕組み(サプライチェーン)をすべて見直しています。
鉄鋼業や化学工業といった日本の大切な産業も、「水素エネルギー」を使ったり、二酸化炭素を回収・貯留・利用する「CCUS」といった新しい技術を取り入れたりする必要があります。これらの変化は、新しい産業や仕事を生み出す一方で、これまでの産業の形を大きく揺るがす可能性も秘めています。
会社は、環境への配慮だけでなく、経済的にもうまくいく「グリーンビジネス」を作り出すために、知恵を絞る必要があるのです。
3. 日本の大きな問題「働く人の減少」
日本は、世界でも珍しいほどの速さで、子どもの数が減りお年寄りが増えています。これに伴い、働くことができる年齢の人口(生産年齢人口)が年々減っています。これは、経済が成長するのを大きく邪魔するだけでなく、社会を支える仕組み(社会保障制度)を維持する上でも深刻な問題です。
昔のように、たくさんの人が働いていたからこそ成り立っていた生産のやり方やサービスの提供モデルは、もう続けるのが難しくなっています。外国から働きに来る人を受け入れることも進められていますが、世界中で人材の取り合いが激しくなっており、すぐに解決できる問題ではありません。
このような状況の中で、会社は「限られた人数で、どうやって仕事の成果(生産性)を上げ、事業を続けて発展させていくか」という難しい問題に直面しています。一人ひとりの従業員が、もっと高い能力を発揮し、より価値のある仕事ができるようになるための「質の向上」が、これまでになく求められているのです。
デジタル技術を使って仕事の効率を上げるのはもちろんのこと、従業員が自分のスキルを常に新しくし、新しい役割に対応できるような人材育成の仕組みが欠かせません。
私たちは今、まさに昔の産業革命以来の大きな変わり目に立っています。デジタル化と脱炭素化という2つの大きな波が、同時に押し寄せているのです。
この変化は、たんに「困ったこと」として受け止めるだけでなく、「新しい価値を作り出す素晴らしいチャンス」と捉えるべきです。日本企業がこれまで培ってきた技術力、組織力、そして何よりも「人」の強みを最大限に活かしながら、新しい時代に合った人材を育てることで、これからも成長し続けることができると信じています。
特に大切なのは、AIやロボットによって仕事が自動化されることの影響です。これにより、今後働く場所(労働市場)では、「高いスキルを持つ人」と「決まった作業をする人」との間で、役割やもらえるお金(賃金)の差が広がると言われています。たとえば、簡単なデータ入力や事務作業はAIが代わりにやり、人はもっと創造的で戦略的な仕事に集中する、といった変化です。
しかし、この状況を悲観する必要は全くありません。適切な教育にお金をかけ、社員一人ひとりが自ら積極的に学び直す「リカレント教育(学び直し)」の機会を提供することで、誰もが新しい時代に必要な能力を身につけ、もっと価値のある仕事へとステップアップすることが可能です。未来人材ビジョンは、この変化を前向きに捉え、具体的な進むべき道を示す羅針盤となるでしょう。
大切なポイント
- 変化に対応する速さ: デジタル化や脱炭素化は待ったなしで進んでいます。会社や個人がこの変化にどれだけ早く対応できるかが、これからの競争力を大きく左右します。ゆっくりしている時間はありません。
- 人材の配置の見直し: 働く人が減る中で、たんに人数を揃えるだけでなく、「どんなスキルを持つ人を、どれくらい確保し、育てるか」という戦略が欠かせません。未来を見据えた、根本的な人材戦略の変更が求められます。
- 学び続ける文化を作る: 技術の進化は速く、一度学んだ知識やスキルがすぐに古くなる可能性があります。会社全体、そして個人が「一生学び続ける」という意識を持つこと、そのための環境を整えることが最も大切です。
考えておくべきこと・課題
- 投資と成果のバランス: 大規模な人材育成やデジタルへの投資には、たくさんのお金がかかります。特に中小企業にとっては、その投資に見合う成果をどう見込むか、どうやって資金を集めるかが大きな課題です。国や金融機関による支援が欠かせません。
- これまでの成功から抜け出す: 長年続けてきた会社のやり方や成功体験が、新しい時代への変化を邪魔する壁になることがあります。過去の成功にこだわりすぎず、思い切った自分たちの変化を受け入れる気持ち(マインドセット)が、会社全体に広がるかが問われます。
教育の格差が広がる可能性: 学び直しや新しいスキルを身につける機会が、すべての人が同じように得られるとは限りません。お金の理由や住んでいる場所の都合で、教育の機会から取り残されてしまう人が出る可能性があります。これでは、人材の能力差がさらに広がり、社会全体の活力が下がることにつながりかねません。誰もが取り残されないための、公平な教育機会を提供することが、社会全体での課題となります。

