統合的視座 複合的危機の時代

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 さて、2026年から2050年という未来を想像する時、私たちはどうも、ただ一つの大きな課題に直面するわけではなさそうだ、と感じています。むしろ、これまでの人類が経験したことのない、まさに「複合的な危機」の時代へと足を踏み入れようとしているのではないでしょうか。

 例えば、地球温暖化が引き起こす異常気象は、食料生産に深刻な影響を与え、それが食料危機や経済的な困窮へと直結するかもしれません。さらに、住む場所を追われた人々が新たな移動を生み、資源を巡る争いが、これまでになかった地政学的な緊張の火種になることも十分に考えられます。また、グローバル化が進む中での人の移動の活発化や、野生動物と人間の距離が縮まることで、新たなパンデミックがこれまで以上の頻度で発生するリスクも高まっていると言われていますね。もしそれが現実となれば、世界のサプライチェーンは再び寸断され、経済活動は停滞し、結果として貧富の差はさらに広がってしまうでしょう。

 一方で、AIやバイオテクノロジーといった革新的な技術は、私たちの生活を劇的に豊かにする可能性を秘めています。しかし、その裏側には、倫理的な問題、雇用への影響、そして悪用された場合のセキュリティリスクなど、新たな、そして非常に厄介な課題が潜んでいることも忘れてはならないと、私は常々思っています。

 こうした複合的な危機の度合いを測るために、「複合危機指数」というユニークな指標が提案されているのをご存知でしょうか。これは気候変動、パンデミック、経済格差、技術進歩の負の側面、地政学的緊張という5つの要素を統合して数値化したもので、将来の危機レベルを教えてくれる羅針盤のようなものです。この指数が示す予測を見ると、残念ながら、私たちの目の前にある危機のレベルは持続的に上昇していくと見込まれています。

 具体的な数字を挙げるならば、2020年には「45」だった指数が、2026年には「62」、2030年には「71」と、危機がより顕在化する兆しが見え始めます。さらに、2035年には「78」、2040年には「84」、2045年には「88」と着実に高まり、2050年には「92」に達すると予測されています。もちろん、これはあくまで一つの予測値ではありますが、過去のデータや専門家たちの分析を踏まえると、現在進行中の様々な問題が決して解消されるどころか、むしろ複雑さを増し、深刻化していく可能性が高いことを示唆している、と私は受け止めています。

 ここで肝心なのは、これらの複合的な危機が、それぞれを切り離して対処できるような独立した問題ではない、という点です。例えば、気候変動対策だけを懸命に進めても、それが経済格差や地政学的な緊張にどのような波紋を広げるのかまで視野に入れなければ、別の場所で新たなひずみを生みかねません。だからこそ、危機全体を俯瞰し、その相互の関連性を深く理解した上で、全体的(ホリスティック)かつシステム的なアプローチが不可欠なのだ、と私は強く感じています。気候変動対策を進めるのであれば、途上国の経済発展や貧しい人々の生活に配慮し、「公正な移行(Just Transition)」を支援するような国際協調が、今こそ求められているのではないでしょうか。

 しかしながら、残念なことに、近年は国際社会での協調体制が弱まる傾向にあります。各国が自国の利益を最優先するナショナリズムの台頭、保護主義的な動きの増加、そして主要国間の対立激化などが、人類共通の課題に対する統合的な対応を極めて困難にしているのが現状です。パンデミック発生時のワクチン供給の偏りや、気候変動に対する国際的な合意形成の足踏み状態などは、その典型的な例として挙げられるでしょう。このような厳しい状況下で、個々の国家や地域が単独でこの複合的な危機を乗り越えることは、極めて難しいと私は見ています。私たちは今、いかにして国際社会の信頼関係を再構築し、共通の未来のために手を取り合って協力できるのかという、非常に重く、そして困難な問いに直面しているのです。