システム崩壊のリスク
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私たちが今、目の当たりにしている複合的な危機。これらがもし、互いに悪い影響を与え合い、ある臨界点を超えてしまったらどうなるでしょうか。実は、私たちの社会を支えているグローバルシステムそのものが、もう立ち行かなくなるかもしれない、そんな恐ろしい可能性が指摘され始めています。これは単に経済が少し停滞する、といった生易しい話ではないのです。
具体的に言えば、まず世界規模での金融システムが音を立てて崩れ、国境を越えた物流網、いわゆるサプライチェーンが完全に近い形で機能しなくなるかもしれません。さらに、国家としての体裁が保てなくなる「国家の失敗」が相次ぎ、気候変動や紛争によって、信じられないような規模で人々が住む場所を追われるそんな事態が次々と、そして連鎖的に発生する恐れがあるのです。もし、本当にこのような状況が現実のものとなれば、それは現代文明が経験する、まさに「文明レベルの危機」と呼ぶにふさわしいでしょう。
こうした危機は、まるでドミノ倒しのように、たった一つの問題が次の問題を引き起こし、最終的には世界全体を巻き込んでいくと想像できます。その進行過程を、少し具体的に追ってみましょう。
まず、始まりはやはり「気候ショック」からかもしれません。猛暑、記録的な干ばつ、あるいは想像を絶する豪雨による洪水、巨大台風の頻発など、極端な気象現象が地球上のあらゆる場所で日常化していく。これにより、世界の主要な穀倉地帯では農作物が壊滅的な被害を受け、漁業や畜産業も大きな痛手を負うことになります。たとえば、ある地域では水がなく作物が枯れ果て、その一方で別の地域では洪水で全てが流されるそんな悲劇が同時に起き、食料全体の生産量が大きく落ち込んでしまうのです。
この「気候ショック」が引き金となり、私たちの生活の根幹である「食糧危機」が深刻化していくでしょう。生産量の減少は、あっという間に国際市場での食料価格を歴史的な水準まで押し上げます。小麦や米、トウモロコシといった基本的な食料が高騰すれば、特に経済的に余裕のない人々は、日々の食事さえままならなくなります。その結果、世界中で飢餓と栄養失調が拡大し、これに耐えかねた人々が各地でデモや暴動を起こすなど、社会全体に広がる深刻な不安(社会不安)が引き起こされることは、想像に難くありません。
「食糧危機」とそれに続く「社会不安」、さらには気候変動によって居住地を失った人々は、やがて「大規模移動」を余儀なくされます。食料を求めて、あるいは安全な場所を求めて、多くの人々が国境を越え、新たな場所へと移動を始める。数百万、あるいは数千万といった規模の難民が流入するような事態となれば、受け入れ国は、これまでの社会保障制度では対応しきれないほどの重圧にさらされ、文化的な摩擦や治安の悪化といった問題が頻発するでしょう。これは、受け入れ国内でのナショナリズムを勢いづかせ、国際的な協調の道をさらに険しくし、政治的な緊張感を劇的に高める要因となってしまうはずです。
こうした「大規模移動」と、それによって激しくなる水や食料、エネルギーといった資源を巡る争奪戦は、残念ながら「紛争勃発」へとエスカレートしていく可能性を秘めています。国内では民族間や宗教間の対立が激化し、国境を挟んだ国家間では、貴重な水資源や農地を巡る武力衝突が勃発する。このような紛争は、さらなる難民を生み、国際社会の分断を深めるだけでなく、貿易路の寸断やインフラの破壊、国際的な投資の停滞を招き、世界経済システムに回復不能なほどのダメージを与えることになりかねません。
そして「紛争勃発」が引き起こす経済的打撃と、国際社会の協力体制の崩壊は、とうとう「システム断絶」という、最悪のシナリオへと私たちを導いてしまうかもしれません。グローバルな金融市場は混乱の極みに達し、通貨への信頼は揺らぎ、国際的な決済システムは機能不全に陥るでしょう。また、戦争や国家間の対立は、これまで密接に結びついていた国際的なサプライチェーンを完全に寸断し、貿易は大幅に停滞します。これにより、世界経済はそれぞれの地域が孤立する「分断」の状態へと進行し、相互依存によって築き上げられてきた現代社会の基盤そのものが、根底から揺らいでしまうのです。
この「システム断絶」の状態は、あらゆる問題をさらに複雑にし、「さらなる不安定化」という悪循環を加速させるだけでしょう。経済の停滞は貧困を増大させ、社会不安を再燃させ、新たな紛争の火種となります。そして、環境問題への国際的な取り組みも立ち行かなくなり、気候変動はさらに加速してしまう。このように、一度崩壊の連鎖が始まってしまえば、各要素が互いを増幅し合い、もはやどこでこの負の連鎖を食い止めるべきか、判断さえも難しい、制御不能な状態に陥ってしまうのではないか、と私たちは危惧せざるを得ません。
このような破滅的なシナリオを現実のものとしないために、今、私たちに求められているのは、グローバルシステムが外部からのショックにどれだけ耐えうるかという「レジリエンス(回復力、適応能力)」を、根本から、そして戦略的に高めていくことに尽きるでしょう。具体的には、何かあった時のために多様な選択肢を持っておくこと(多様性)、ある機能が停止してしまっても代替手段があること(冗長性)、そして刻一刻と変化する状況に柔軟に対応できること(適応能力)が、危機に強いシステムを構築するための、まさしく不可欠な要素となると言えるのではないでしょうか。

