ジョナサン・ハイトの道徳基盤理論とインサイト

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道徳心理学者ジョナサン・ハイトの道徳基盤理論は、人間の直観的な道徳判断の基盤となる6つの次元を提示しています。この理論はインサイト発見において、消費者の価値観や選択の背後にある深い道徳的直観を理解するのに役立ちます。消費者行動やブランド選好における無意識の動機を解明する強力なフレームワークとして、マーケティングリサーチにおいても注目されています。

ケア/危害

弱者を守り、危害を与えないことを重視

公正/欺瞞

公平さと正義を重視

忠誠/裏切り

グループへの忠誠を重視

権威/転覆

伝統と正当な権威を尊重

神聖/堕落

純粋さと神聖さを重視

自由/抑圧

個人の自由と選択を重視

各道徳基盤は、特定の消費行動と強く結びついています。「ケア/危害」の基盤が強い消費者は動物実験を行わないブランドを好み、「公正/欺瞞」が強い人はフェアトレード製品に惹かれます。「忠誠/裏切り」が顕著な場合は国産品や地元企業を支持し、「権威/転覆」の傾向が強い人は伝統や専門性を重視するブランドを選びます。「神聖/堕落」の基盤が強い消費者は自然由来の「純粋な」製品を求め、「自由/抑圧」が強い人は自己表現や選択の自由を提供するブランドに共感します。

例えば、環境に配慮した商品選択の背景には、「ケア/危害」の基盤(地球や生態系を害したくない)だけでなく、「神聖/堕落」の基盤(自然の純粋さを守りたい)や「忠誠/裏切り」の基盤(環境保護コミュニティへの所属感)が関わっていることがあります。この理論を用いることで、表面的な態度の奥にある道徳的直観を理解し、より共感的なコミュニケーション戦略を構築できます。

ラグジュアリーブランドの消費においても道徳基盤は影響しています。高級品を「ステータスの象徴」として見る視点は「権威/転覆」の基盤と関連し、「職人技の継承」という物語は「神聖/堕落」の基盤に訴えかけます。一方、「自分らしさの表現」というメッセージは「自由/抑圧」の基盤に共鳴します。消費者インサイトを深堀りする際には、これら道徳基盤のバランスや優先順位を理解することが重要です。

文化によって道徳基盤の重み付けは異なります。集団主義的な東アジア文化では「忠誠/裏切り」や「権威/転覆」の基盤が重視される傾向があり、個人主義的な北米文化では「自由/抑圧」や「ケア/危害」の基盤が強調されます。グローバルマーケティングにおいては、ターゲット市場の主要な道徳基盤を理解し、それに合わせたメッセージングが効果的です。

ジョナサン・ハイトは、アメリカ合衆国の社会心理学者。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授。専門は道徳心理学、ポジティブ心理学で、道徳の感情的基礎、文化との関連についての研究に従事している。著書「The Righteous Mind(邦題:社会はなぜ左と右にわかれるのか)」では、政治的立場による道徳基盤の違いを分析し、異なる価値観を持つ人々の相互理解の重要性を説いている。