第11章:ビジネス力の能力詳細(2)
Views: 0
前回に続き、仕事で大きな成果を出すために大切な能力について、さらに深く見ていきましょう。今回お話しする「戦略性」「客観視」「説明力」「交渉力」の4つの力は、チームを動かし、新しい未来を作る上でとても役立つはずです。難しい言葉は使わず、日々の仕事に活かせるヒントを交えながら、それぞれの能力のポイントをお伝えします。
コンテンツ
戦略性:未来を見据え、確かな一歩を踏み出す力
「戦略性」とは、まるで高い山に登る登山家のように、遠くにあるゴールをしっかり見つめ、そこにたどり着くための最も良い計画を立てる力です。目の前のことだけでなく、半年後、一年後、あるいは数年後の未来を考えて、「今、何をすべきか」を考える力、とも言えます。
たとえば、新しい商品を作るとき、「今売れるもの」だけを追いかけるのではなく、「3年後にお客様は何を求めているだろう?」「ライバル会社はどんな動きをしているか?」といった問いを立ててみます。そして、その答えをもとに、限られた予算や人という「持ち物」をどう使えば、一番確実に目標を達成できるかをじっくり考えます。これは、目の前の小さな利益にとらわれず、会社が長く成長するための「地図」を描くような作業です。
具体的な例:
小さなカフェが、近くに大手コーヒーチェーンができると知ったとします。すぐに「値下げ」を考える人もいるかもしれませんね。でも、戦略性のある店長なら、「大手と価格競争しても勝ち目はない。それよりも、この地域でうちのカフェだけにできる特別な価値は何だろう?」と考えます。そして、「手作りの日替わりランチに力を入れよう。地域のお年寄りにも優しいデリバリーサービスも始めよう。3年後には『地域で一番親しまれる憩いのカフェ』になるぞ!」という目標を立てます。そのために、メニューを開発したり、サービスを整えたりすることに、人やお金を集中させるかもしれません。これが「戦略性」です。
客観視:感情に流されず、真実を見極める力
「客観視」とは、自分自身や自分の会社を、まるで空の上から見下ろすように、冷静で公平な目で分析する能力です。私たちは誰でも、自分の考えや行動、会社の商品に対して、ついつい良い面ばかりを見てしまいがちです。でも、客観視の力があれば、そうした「ひいき目」をなくし、良いことも悪いことも、ありのままに受け止められます。
この力がなければ、問題が大きくなるまで気づかなかったり、間違った方向に進んでしまったりするかもしれません。特に、大切な決断をするときや、自分の弱点を改善したいと考えるときに、この客観的な視点はとても役に立ちます。自分の得意なことは何で、苦手なことは何なのか。市場の中で、自分の会社が本当にどの位置にいるのか。感情や思い込みではなく、データや事実に基づいて判断することで、より現実的で効果的な対策を立てることができます。
具体的な例:
新しい商品の売れ行きが伸び悩んでいるとします。客観視ができていない担当者は、「デザインは最高だし、機能も問題ないはずだ。きっと宣伝が足りないんだ」と、自分の思い込みで原因を決めてしまうかもしれません。しかし、客観視ができる担当者は、まずお客様アンケートやライバル商品の分析データ、社内の販売実績などを徹底的に集めます。その結果、「デザインは若者向けだったが、価格帯は年配の方向けで、狙ったお客様の層がずれていた」という事実や、「ライバル商品はシンプルな機能だけど、買った後のサポートが手厚く評価されている」といった客観的な情報から、本当の問題点を見つけ出すことができるのです。
説明力:難しいことを、誰にでも「わかる」に変える力
「説明力」とは、複雑なアイデアや専門的な内容を、相手が「なるほど!」と納得できるように、わかりやすく伝える能力です。これは、ただ情報を並べるだけではありません。相手がどんなことに興味があり、どこまで知っているかを見極め、それに合わせて言葉を選んだり、たとえ話を使ったり、時には身振り手振りも交えながら、心を込めて語りかけることです。
仕事の現場では、上司への報告、お客様への提案、チームメンバーへの指示など、説明する機会はたくさんあります。どんなに素晴らしいアイデアを持っていても、それが相手に伝わらなければ、ないのと同じです。相手の立場に立って、「どうすれば一番伝わるか?」を考え抜くことが、この能力を磨く大切なポイントです。論理的な構成はもちろん、具体的な数字や成功事例を盛り込むことで、話に深みと納得感が生まれます。
具体的な例:
新しく導入するシステムについて、IT部門の担当者が経営陣に説明するとします。専門用語を並べても、経営陣には理解されにくいでしょう。そこで、説明力のある担当者は、「このシステムを導入することで、これまで毎日2時間かかっていたデータ入力作業が、たった15分に短縮されます。これは年間で約500万円の人件費削減につながる計算です」と、経営陣が関心のある「時間短縮」と「コスト削減」という具体的なメリットから説明を始めます。さらに、「まるで新しいスマホを使うように、誰でも簡単に操作できます」と、たとえ話を使って安心感を与えれば、理解度はぐっと深まるでしょう。
交渉力:お互いが「よかった」と思える未来を創る力
「交渉力」とは、違う意見や考えを持つ人たちの間で、話し合いを通じて、お互いが「これでよかった」と心から思えるような結論を導き出す能力です。これは、相手を言い負かすことでも、自分の意見を無理に通すことでもありません。むしろ、相手の希望や状況を深く理解し、自分の考えもはっきりと伝えながら、お互いにとってより良い解決策を探し出すプロセスなのです。
世界とのつながりが深まる現代では、文化や習慣が違う相手との交渉も当たり前になっています。言葉の壁はもちろん、価値観の違いから誤解が生まれることもあります。だからこそ、相手の文化やビジネスのやり方を尊重し、時間をかけて信頼関係を築く姿勢が求められます。長く良い関係を続けるためには、目の前の勝ち負けにこだわるのではなく、「Win-Win(お互いが得をする)」の関係を目指すことがとても大切です。
具体的な例:
海外の部品メーカーから商品を仕入れる際、価格交渉をするとします。単に「もっと安くしてほしい」と要求するだけでは、交渉はうまくいかないことが多いでしょう。交渉力のある担当者は、まずメーカーの担当者と信頼関係を築き、「私たちの新しい商品は、長くたくさん注文できる見込みがあるので、御社にとっても大きなメリットがあるはずです」と、メーカー側の利益も伝えます。そして、「最初の注文の価格を少し下げる代わりに、次のモデルでは部品の仕様変更を柔軟に検討する」といった、お互いにメリットのある別の案を提案することで、納得のいく合意ができるでしょう。
クリティカルポイント:能力を実践で磨く
これらの能力は、本を読んだり、授業を受けたりするだけで身につくものではありません。大切なのは、日々の仕事の中で意識して「使ってみる」ことです。例えば、「戦略性」を意識するなら、週の初めに「今週の仕事は、将来どうつながっていくんだろう?」と考えてみましょう。「客観視」を鍛えるなら、自分の意見を言う前に「もし自分がお客さんだったら、どう感じるかな?」と問いかけてみましょう。こうして小さな実践を積み重ねることで、これらの能力は確実にあなたの力になっていきます。
特に、人事労務担当者やマネージャーの皆さんには、部下やメンバーが「失敗を恐れずに挑戦できる」環境を整えることが求められています。少し難しい仕事や、背伸びが必要な役割を任せることで、彼らは自分で考え、行動し、そして成長していきます。成功体験だけでなく、失敗から学ぶ機会も、これらの能力を育てる上ではとても大切です。
反証・課題:完璧ではない、だからこそ成長できる
ご紹介した能力は、どれも非常に重要ですが、現実の世界はいつも複雑で、一つの能力だけで全てを解決できるわけではありません。例えば、「戦略性」が高くても、それを実行する「行動力」がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。また、「説明力」があっても、説明する内容自体が薄ければ、やはり相手を納得させることはできません。
さらに、これらの能力は個人の性格や経験に大きく影響されるため、誰もが完璧に持っているわけではありません。例えば、生まれつき感情豊かな人は「客観視」が苦手かもしれませんし、初めて会う人と話すのが苦手な人は「交渉力」に課題を感じるかもしれません。でも、だからこそ、私たちはそれぞれの苦手な部分を補い合い、チームとして最高の力を発揮できます。自分の得意な能力を活かしながら、苦手な能力は周りの協力を得たり、意識的に学んで克服したりする。このバランス感覚こそが、真のビジネス力を高める上での課題であり、同時に成長のチャンスでもあるのです。

