第13章:大切なスキルを深掘りしよう(前編)

Views: 0

 この章では、働く人が成長し続けるためにとても大事な「基本的なスキル」について見ていきましょう。これらのスキルは、日々の仕事をスムーズに進めるだけでなく、変化の多い今の世の中で、自分自身の価値を高めていくための基本になります。ただ知るだけでなく、実際にやってみて、考えて、行動することで学べるものばかりです。

仕事の土台を作る「基本のスキル」

 「基本のスキル」とは、どんな仕事や業界でも必要になる、仕事の土台となる力のことです。まるで丈夫な建物の基礎のように、他の専門的なスキルや知識を積み上げていくための、しっかりした土台を作ります。具体的には、時間管理、目標設定、自己管理などが含まれます。

 例えば、毎日の仕事で、どのタスクにどれくらいの時間を使い、いつまでに何を終わらせるべきか、そして自分のやる気をどう保つか、といったことは誰でもぶつかる壁です。これらの基本のスキルをしっかり身につけていれば、急な問題が起きても落ち着いて対応できますし、使えるものが限られていても、一番良い結果を出せるようになります。

 もし、一人のプロジェクトマネージャーがたくさんの仕事を抱えているとしましょう。時間管理が上手なら、急ぎのタスクから優先して始め、同時に進むプロジェクトの状況も正確に把握できます。また、自己管理能力が高ければ、ストレスを感じやすい状況でも自分の体や心の状態を上手にコントロールし、良い働きを続けられるでしょう。これらのスキルは、一見地味に見えるかもしれませんが、仕事の質や効率を大きく上げ、最終的にはキャリア全体の成功に直接つながる、とても大切な力なのです。

変化に対応する「学びのスキル」

 今の時代は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれ、変動性が高く、不確実で、複雑で、曖昧な状況が続いています。昨日まで当たり前だったことが、今日には通用しなくなることも珍しくありません。このような状況で一番価値のあるスキルの一つが「学びのスキル」です。

 これは、新しい知識や技術、情報が次々と生まれる中で、それらを効果的かつ効率的に吸収し、自分のものとして使いこなす能力を指します。言ってみれば、「学び方を学ぶ」という、それ自体がスキルであり、一度身につければ一生涯あなたの強い武器となります。

 学びのスキルには、ただ情報を暗記するだけでなく、与えられた情報をしっかりと考え、その本質を理解し、すでに持っている知識と結びつけて整理する能力が含まれます。また、学んだことを実際の仕事に生かし、試行錯誤しながら改善していく実践力も重要です。

 例えば、新しいソフトの導入が決まった時、学びのスキルが高い社員は、マニュアルを読むだけでなく、実際に触って機能を試したり、分からないことは積極的に質問したりします。そして、覚えたことを他の同僚にも教えることで、チーム全体の生産性を上げることに貢献できます。さらに、失敗から学び、その経験を次に生かす「振り返り(リフレクション)」の力も学びのスキルの一部です。これにより、個人だけでなく、会社全体として継続的に成長する良いサイクルを生み出すことができるのです。

論理的に判断する「数字を読み解くスキル」

 ビッグデータ、AI、DXといった言葉が当たり前になった今のビジネスにおいて、「数字を読み解くスキル」の重要性は非常に高まっています。これは、数学的な考え方に基づき、データを正確に理解し、統計的に分析し、その結果から客観的で筋の通った結論を導き出す能力です。

 数字のデータは、私たちの周りの出来事を客観的に示す強力な情報源です。それを正しく理解し活用することは、事業戦略を立てる時から日々の決定まで、あらゆる場面で欠かせません。

 例えば、マーケティング担当者がWebサイトのアクセスデータを分析する時、ただ「訪問者が増えた」と見るだけでなく、「どのルート(チャネル)から来た訪問者が増えたのか」「サイトのどのページで多くの人が見るのをやめているのか」といった詳しい数字を分析することで、具体的な改善策を立てることができます。売上データであれば、季節による変動やキャンペーンの影響を考慮に入れて、将来の売上を予測するためのモデルを作ることも可能です。

 数字を読み解くスキルは、たくさんの数字の中から意味のあるパターンや傾向を見つけ出し、それをビジネスに役立つヒントに変える「通訳の力」とも言えるでしょう。これにより、個人の勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的な根拠をもって意思決定を行い、より確かなビジネス成果へとつなげることができるのです。

はっきり伝える「言葉のスキル」

言葉のスキル(書くこと)

 ビジネスにおいて、文章でのコミュニケーションはとても大事です。メール、企画書、報告書、プレゼン資料など、書面を通じて情報や意見を正確に、効果的に伝える能力が「言葉のスキル(書くこと)」です。このスキルが高い人は、読む人が何を求めているかを理解し、それに合わせて情報を整理し、分かりやすく表現できます。

 具体的には、まず「論理的な文章の構成力」が挙げられます。結論から先に述べるPREP法(Point=結論、Reason=理由、Example=具体例、Point=結論)などはその典型で、複雑な内容でも読む人がスムーズに理解できるように組み立てる力が求められます。次に、「分かりやすい表現力」も欠かせません。専門用語を避け、具体的な例を交えながら説明することで、誤解を防ぎ、伝えたいことが確実に伝わるように工夫します。

 また、相手の立場や役職、目的に応じて「読む人に配慮した書き方」をすることも重要です。例えば、社内向けと社外向け、上司への報告と部下への指示では、言葉遣いやトーンを適切に変える必要があります。これらの点を意識することで、あなたの文章は単なる情報伝達の手段を超え、相手の行動を促し、信頼関係を築く強力な道具となるでしょう。

言葉のスキル(話すこと)

 対面やオンライン会議、電話、プレゼンテーション、商談、チームでの話し合いなど、口頭でのコミュニケーションはビジネスのあらゆる場面で欠かせません。自分の考えや情報をはっきりと、そして魅力的に伝える能力が「言葉のスキル(話すこと)」です。このスキルは、相手とのリアルタイムなやり取りの中で、お互いの理解を深め、協力関係を作る上で決定的な影響を与えます。

 重要なのは、「はっきりとした発音と適切な声の大きさ」で話すことです。どんなに素晴らしい内容でも、聞き取りにくければ意味がありません。また、一方的に話すだけでなく、「相手の反応を見ながら調整する」柔軟性も必要です。相手の表情や相槌、質問から関心や理解の度合いを読み取り、説明のスピードや内容をその場で変えられる能力は、スムーズなコミュニケーションを促します。

 さらに、「言葉以外のコミュニケーション(非言語コミュニケーション)の活用」も見逃せません。アイコンタクト、ジェスチャー、姿勢、表情などは、言葉以上に伝えたいことや感情を伝えることがあります。例えば、プレゼンテーションで自信を持って話す姿勢や、相手の話を真剣に聞くときのうなずきは、信頼感を高めます。これらの話すスキルを磨くことで、あなたは人前で堂々と意見を述べ、チームをまとめ、顧客との関係を強くし、ビジネスを成功へと導くことができるようになるでしょう。

 これらのスキルは、一度身につけて終わりではなく、学び続けることで初めて本当に役立ち、時代とともにさらに磨かれていきます。特に、変化が激しい現代においては「学びのスキル」が非常に重要であり、「学び方を学ぶ」という、より高次のスキルは、一度身につければ一生涯にわたって役立つ財産となります。

 人事・労務の担当者の皆様には、社員がこうした基本的なスキルや応用的なスキルを高める機会を積極的に提供することが期待されています。定期的な研修プログラムはもちろんのこと、日々の業務の中に「振り返り」や「フィードバック」の機会を設け、OJT(On-the-Job Training:実務を通して学ぶこと)を通じて学びを促す仕組み作りが重要です。小さな成功体験を積み重ねることで、社員一人ひとりが「学ぶこと」の楽しさや成長を実感できるようになります。このような「学びの文化」を組織全体に根付かせ、社員の自律的な成長を支援することで、会社全体の競争力向上へとつながるでしょう。

クリティカルポイント(大事な点)

  • スキル同士のつながりを理解する:それぞれのスキルはバラバラではなく、お互いに影響し合っています。例えば、数字を読み解くスキルで得られた発見は、書くスキルではっきりとした報告書にまとめられ、話すスキルで効果的に伝えられます。これらの連携を意識した教育が重要です。
  • 実際にやってみて経験を積む:スキルは知識として学ぶだけでなく、実際の仕事で試し、失敗と成功を繰り返す中で磨かれていきます。研修だけでなく、実践の場とフィードバック(改善のための助言)の機会をたくさん提供することがとても大切です。
  • 一人ひとりに合った学びの必要性:社員一人ひとりの今のスキルレベルや、将来の目標は違います。みんなに同じプログラムを提供するのではなく、一人ひとりのニーズに合わせた学習の機会を提供することで、より高い効果が期待できます。

反証・課題(こんな難しい点も)

  • スキルの「見えにくい」難しさ:特に基本のスキルや学びのスキルは目に見えにくく、どれくらい習得しているかを客観的に評価することが難しいという課題があります。具体的な行動の基準や評価の仕組みを導入することが求められます。
  • 学び続けたい気持ちを保つには:忙しい仕事の中で、社員が継続的に学びたい気持ちを保つことは簡単ではありません。学びの大切さを伝え、ご褒美を用意し、学習時間を確保するための制度作りが重要となります。

OJT(実務研修)の質と大変さ:実務を通して学ぶOJTは効果的ですが、教える人の能力や、教える側の仕事の負担が増えるという課題があります。OJTの効果を最大限にするための指導者育成や、サポート体制の強化が必要です。