第3章: 日本の働く環境の今と課題

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 日本の働く環境は今、これまでになかったほど大きく変わろうとしています。少子高齢化で働く人が減っていることはすでに大変な問題ですが、それに加えて、IT技術の進歩が仕事のやり方や必要なスキルを大きく変えているのです。これらのいろいろな理由が重なって、会社とそこで働く人たちの両方に新しい課題が生まれています。

 今の状況を具体的な数字で見てみましょう。残念ながら、日本の働く環境にはすぐに解決すべきいくつかの問題がはっきり見えています。

  • 自動化できる仕事:ある調査によると、日本の働く人の約半分(49%)の仕事は、将来的にAIやロボットが助けてくれる、または代わりにしてくれる可能性があると言われています。これは、事務作業や決まった流れで行う生産業務、データを入力する仕事など、同じことを繰り返す仕事に特に目立つでしょう。例えば、経理の処理やお客様対応の一部、工場での組み立て作業などが、近い将来、AIやロボットによってもっと効率よくできるようになるでしょう。これは単に「仕事がなくなる」という大変なことだけでなく、「人がもっと創造的で価値のある仕事に集中できる」という大きな良い機会でもあります。
  • 仕事へのやる気・愛着(エンゲージメント)の低さ:日本企業の社員の仕事へのやる気・愛着は、世界の他の国と比べても低いことが、いろいろな調査でわかっています。具体的には、約35%の社員しか、「自分の仕事に熱意を持って取り組んでいる」と感じていない、という報告もあります。やる気が低いと、社員の意欲が下がるだけでなく、仕事の効率アップも邪魔され、会社を辞める人が増えることにもつながってしまうかもしれません。これは、会社全体の元気や成長を遅らせる原因となってしまいます。社員が「この会社で働けてよかった」「もっと会社に貢献したい」と感じられる環境を整えることが、今すぐ必要です。
  • 自分で勉強する時間の少なさ:日本の社会人が仕事以外で自分で勉強する時間は、他の国と比べてとても少ない傾向にあります。平均して、仕事以外の学習に使う時間は週にほんの数時間で、中には全く勉強していないという人も少なくありません。これは、新しいスキルを身につけ、変化の激しいビジネス環境に合わせていく上で、大きな壁となっています。IT技術やグローバル化が進む現代において、個人が自ら学び続け、スキルアップする機会が少ないことは、長い目で見て会社の力が弱まることに直接つながってしまう可能性があります。例えば、プログラミングやデータ分析、外国語学習など、自分のスキルアップや出世につながる勉強が、つい後回しになりがちな状況があります。

 このような日本の働く環境が直面している課題は、一見すると深刻で乗り越えるのが難しいもののように思えるかもしれません。しかし、同時に大きな可能性も秘めていると考えることができます。アメリカや日本での研究では、中程度のスキルが必要な仕事(例えば、一部の事務職や販売職など)は減る一方で、高い専門知識が必要な高スキル職(エンジニア、データ分析の専門家、研究開発職、戦略コンサルタントなど)と、おもてなしや直接体を使う仕事をする低スキル職(介護職、清掃員、配達員など)の双方が増えるという「働く環境の二極化」が進んでいると分析されています。

 しかし、これは決して悲しむべき状況ではありません。むしろ、これまでの働き方やスキルの考え方を見直し、人材育成(人を育てること)の大切さがこれまで以上に高まり、一人ひとりの成長が会社の競争力に直接つながる時代が来た、と捉えるべきです。この変化を前向きに捉え、新しい時代に求められる人を育てることで、会社は成長し続けることができるはずです。

 この大きく変わる時において、社員の仕事へのやる気・愛着を高め、自ら進んで学びたいという意欲を引き出すような会社の文化を作ることが非常に大切です。例えば、社内の研修プログラムを充実させたり、インターネットで学べる仕組み(オンライン学習プラットフォーム)を導入したり、キャリアについて相談できる制度(キャリアコーチング)を整えたり、さらには日々の仕事の中で新しいことに挑戦することを応援する雰囲気を作ったりすることが考えられます。人事や労務を担当する皆様には、社員一人ひとりが持つ無限の可能性を信じ、彼らが新しい時代に合わせ、成長していくための具体的なサポートと機会を提供することが強く期待されています。今こそ、古いやり方にとらわれず、未来を見据えた会社を作り上げる絶好のチャンスなのです。私たち全員で、この大きな変化の波を乗りこなし、より豊かで活気ある未来の働く環境を創造していきましょう。

クリティカルポイント(特に大切なこと)

  • 日本の働く環境は、働く人が減ることと、AI・ロボットによる自動化という二つの大きな変化に直面しており、これにより仕事が「二つのタイプに分かれる(二極化)」ことが加速している。
  • 社員の仕事へのやる気・愛着の低さと、自分で勉強する時間の少なさは、これらの変化に対応し、仕事の効率を上げる上での主な壁となっている。
  • これらの課題は、単なる大変なことではなく、会社が人材育成と会社の文化を変えることを通じて、もっと創造的で価値の高い働き方を実現する良い機会と考えるべきである。

反証・課題(こんな見方もあります・難しい点)

  • 自動化の進展は本当に49%もの雇用をなくしてしまうのか?多くの研究が示すのは「作業の一部が自動化される」ことであり、「仕事が完全になくなる」わけではないという側面もある。人とAIが協力することで新しい価値が生まれる可能性も考える必要がある。
  • 社員のやる気・愛着を高める方法はたくさんあるが、一時的な対策ではなく、経営陣が本気で取り組み、長い目で見た文化を変えることが不可欠となる。具体的な成果がすぐに見えにくい中で、投資を続けられるかどうかが課題だ。
  • 自分で勉強することを促すのは個人の気持ちに大きく左右されるため、会社が機会を提供するだけでなく、勉強したい気持ちを引き出し、勉強の成果を評価する仕組みをどう作るかが問われる。勉強疲れや時間の制約がある中で、効果的な学習習慣を根付かせるには工夫が必要だ。
  • 働く環境の二極化は、貧富の差が広がるリスクも含んでおり、安全網(セーフティネット)を整えたり、学び直しの機会を平等にしたりするなど、社会全体での取り組みも同時に進める必要がある。