第5章:未来に必要な考え方と行動
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世の中がどんどん変わっていく中で、会社が成長し続けたり、私たちが仕事で活躍したりするには、ただスキルや知識があるだけでなく、もっと根本的な「考え方」や「行動」がとても大切です。
私たちは、これからの時代に本当に活躍できる人が共通して持っている、4つの大切なポイントに注目しました。これらは、技術が進歩したり、ビジネスのやり方が変わったりしても変わらない、普遍的な強みになります。
これから紹介する項目は、単なる能力の一覧ではありません。仕事への向き合い方、問題を解決する方法、人との関わり方など、その人の土台となる部分です。これらの考え方と行動をしっかり理解し、会社全体で育てていくことが、これからの時代を乗り越えるカギとなるでしょう。
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新しいものを生み出す力
今までのやり方や常識にとらわれず、まったく新しい価値やアイデアを生み出す能力は、未来のビジネスでとても大切です。これは、ただユニークな発想ができるということだけではありません。
たとえば、新しいお客様のニーズを見つけて、誰も考えなかったような商品やサービスを企画・開発したり、今の仕事のやり方を根本から見直して、劇的に効率を良くしたりすることも含まれます。
この力は、「もっと良くするにはどうすればいいか?」と常に考え、自分で課題を見つけて、解決策を探す姿勢から生まれます。時には失敗を恐れずに挑戦し、その経験から学び、次に活かす粘り強さも必要です。
例えば、あるプロジェクトで前例のない問題にぶつかった時、過去の成功体験に固執せず、いろんな情報を集め、他の業界の例も参考にしながら、チームで全く新しい方法を考え、成功に導くといった具体例があります。
深く掘り下げる姿勢
見た目の情報や起きていることだけで満足せず、物事の本当の意味や根本的な原因を徹底的に突き詰めて探す情熱と粘り強さです。情報があふれる今、本当に価値のある情報を見つけて、深い洞察を得るためには、この「深く掘り下げる姿勢」が欠かせません。
例えば、お客様から苦情があった際、ただその問題を解決するだけでなく、「なぜこの問題が起きたのか?」「本当の原因は何か?」「同じことを繰り返さないためにはどうすればいいか?」という問いを何度も繰り返し、データ分析や話を聞くことを通じて深く探ることで、商品やサービスが大きく改善されることがあります。
また、新しい技術やトレンドに触れた時も、その技術の仕組み、どんなことに使えるか、社会にどんな影響があるかなどをいろんな角度から考え、自分の会社でどう活用できるかを深く考えることで、新しいビジネスチャンスが生まれることもあります。この姿勢は、知りたい気持ちと探求心を原動力として、常に「なぜ?」を追求し続けることで育まれます。
社会の課題を解決したい気持ち
自分や自分の会社の利益だけでなく、もっと広い視野で社会全体の課題を捉え、その解決のために積極的に貢献しようとする強い気持ちと行動力です。
地球温暖化問題、貧しさ、格差、高齢化など、今の社会には複雑でたくさんの課題があります。未来を担う人には、これらの課題を「自分とは関係ない」と思わず、「自分自身の問題」として捉え、仕事を通じて解決していこうとする使命感が求められます。
具体的には、会社の商品やサービス開発で、環境への負担を減らしたり、地域社会への貢献を考えに入れたり、ボランティア活動やNPO(非営利団体)との協力を通じて社会貢献活動に積極的に参加したりする行動が挙げられます。
例えば、発展途上国の貧困問題に対し、ただ寄付をするだけでなく、現地で仕事を生み出すビジネスモデルを考え、持続可能な発展を支援するプロジェクトを立ち上げる。あるいは、高齢化社会における医療問題に対し、AIを活用した新しい診断システムを開発し、医療従事者の負担を減らし、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることに貢献するといった例があります。
この気持ちは、単なる慈善活動にとどまらず、ビジネスの持続可能性と社会貢献を両立させる「共通の価値を創造する(CSV)」という考え方にも通じる、未来のリーダーに欠かせない意識です。
多様な人を受け入れ、協力する
性別、年齢、国籍、文化、経験、価値観など、自分とは違うさまざまな背景を持つ人々を心から尊重し、彼らと協力しながら一つの目標に向かって最高の成果を出す能力です。
世界が繋がり、複雑な問題が増える中で、一つの視点だけでは解決できない問題が増えています。
この能力は、異なる意見ややり方を拒否せず、積極的に受け入れ、話し合いを通じてより良い解決策を導き出す柔軟性を意味します。例えば、ある国際的なプロジェクトで、文化や商習慣が異なる複数の国のメンバーが協力して目標達成を目指す場合、それぞれの国の文化や価値観を理解し、尊重しながらスムーズにコミュニケーションを取り、お互いの得意なことを活かし合うことで、一人ではできない大きな成果を生み出すことができます。
また、職場でも、新卒の若手社員からベテラン社員、あるいは異なる専門性を持つ部署のメンバーが、それぞれの知識や視点を持ち寄り、建設的な話し合いを重ねることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。
多様な視点を取り入れることで、思わぬ問題を発見したり、これまでにない画期的なアイデアが生まれたりするのです。この協力する精神は、未来のチームや組織の力を最大限に引き出すための土台となります。
これまでご紹介したこれらの基本的な考え方と行動は、まさに未来を担う人が持つべき「道しるべ」のようなものです。表面的なスキルや知識は、時代の流れとともに古くなる可能性がありますが、ここに挙げた4つのポイントは、どんな変化にも対応し、個人そして会社が成長し続けるための普遍的な土台となります。
特に大切なのは、これらの意識を会社の文化として深く根付かせ、日々の仕事の中で実践できる環境を整えることです。人事や労務の担当者、マネージャーの皆さんには、単に「能力を評価する」だけでなく、「これらの意識を育む機会を提供する」役割が強く期待されています。
研修プログラムの見直し、評価制度への反映、そして何よりもリーダー自身が手本を示すことが不可欠です。例えば、新しい挑戦を応援し、たとえ失敗してもそれを学びの機会として受け入れる「失敗を恐れない文化」を育むこと。これは、「新しいものを生み出す力」を育てる上で欠かせません。
また、「多様な人を受け入れ、協力する」という精神は、新しいアイデアが生まれる源になります。異なる背景を持つ人々の意見を積極的に取り入れ、建設的な話し合いを促すことで、会社全体の創造性と問題解決能力が格段に向上します。
一人ひとりの個性や専門性を尊重し、誰もが安心して自分の意見を言える、心理的に安全な職場環境を作るのが、未来の人材育成における最初で最も大切な一歩となるでしょう。このような考え方と行動が会社全体に広まれば、変化を恐れることなく、未来へと進む強い力になるはずです。
クリティカルポイント:考え方を変える難しさと実践への道筋
これらの根本的な考え方や行動が重要だと誰もが理解できるものの、実際に会社全体に広めて、日々の行動レベルで実践させるのは決して簡単ではありません。例えば、「新しいものを生み出す力」を求める一方で、今の評価制度では短期的な成果や安定を重視し、挑戦に伴う失敗を許さない文化が残っていることがよくあります。
新しいアイデアを提案しても、「前例がない」「失敗したらどうするのか」といった声が上がり、結局は無難な選択に落ち着いてしまうという状況は、多くの会社で経験されているのではないでしょうか。
また、「深く掘り下げる姿勢」や「社会の課題を解決したい気持ち」も、日々の忙しい仕事の中で、深く考える時間や視点を持つのが難しいのが現実です。目の前の作業をこなすことに追われ、本質的な問いかけをする余裕が失われがちです。
さらに、「多様な人を受け入れ、協力する」についても、頭では理解していても、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)や、異なる意見をまとめるコミュニケーションスキル不足によって、表面的な「仲良しグループ」にとどまってしまい、本当の相乗効果が生まれないことがあります。
考え方や行動を変えることは、すぐにできることではなく、長い期間をかけて取り組む必要があります。経営層の強い意思と、それを支える具体的な仕組み作り、そして継続的な働きかけが欠かせません。
反証・課題:既存の組織との摩擦と効果を測る難しさ
一方で、これらの「未来志向の考え方・行動」を今の会社の文化に導入しようとすると、さまざまな対立や問題が起こる可能性があります。
例えば、長年培ってきた企業文化や成功体験が、新しい挑戦を邪魔する「反証」として立ちはだかることがあります。安定を求める組織や、過去の成功モデルに固執する社員にとっては、「なぜ今、そこまで変化を求めるのか?」という反発が生じるかもしれません。
新しい価値観を導入しようとすると、一時的に仕事の効率が落ちたり、混乱が生じたりすることもあります。
また、これらの考え方や行動が会社にもたらす効果を、数字で測るのが難しいという課題もあります。例えば、「深く掘り下げる姿勢」がどれだけ売上アップに貢献したのか、「多様な人を受け入れる」ことがどれだけ新しいアイデアにつながったのかを具体的な数字で示すことは、非常に困難です。
そのため、経営層や現場からの理解を得るのが難しく、取り組みが途中で頓挫してしまうリスクも考えられます。考え方や行動の変革は、短期的な投資効果(ROI)では測れない、長い目で見た投資であり、その価値をどうやって見えるようにし、会社全体で共有していくかが重要な課題となります。
目に見えにくい効果を、どんな基準で評価し、会社全体のやる気を維持していくか、具体的な計画(ロードマップ)が必要です。

