第27章:算数や科学を「好き!」になるには?〜現状とこれからの課題〜

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 日本の若い人たちは、算数や科学の基礎を学ぶ力は世界でもトップクラスです。これはとても素晴らしいことですね。

 でも、せっかくのその力が、将来「算数や科学に関わる仕事がしたい!」という気持ちにつながっていないのが現状です。知識はたくさんあるのに、それをどう生かすか、どんな面白いことができるか、というワクワクする気持ちが足りていないのかもしれません。

 例えば、世界中で行われるPISA(ピザ)というテストを見てみましょう。これは、15歳の子どもたちがどれくらいの学力を持っているかを測るものです。

 このPISAのテストで、日本の子どもたちは「数学的リテラシー(算数や数学の考え方を、日常生活で使いこなす力)」と「科学的リテラシー(科学的な知識を使って物事を判断したり、ニュースを理解したりする力)」の両方で、いつもトップクラスの成績を出しています。これは、日本の教育が、基礎をしっかり教えている証拠で、本当にすごいことです。

 ところが、残念な問題があります。高い学力を持っているのに、「将来、算数や科学の仕事がしたい!」という夢や目標を持つ子どもが少ないのです。ある調査では、約68%の子どもが「算数や科学は将来役に立つ」と頭では分かっています。しかし、実際に「理数系の仕事を目指す」と答える子どもは、国際的に見ても少なく、約15%ほどしかいません。

 「知っている」と「やってみたい」の間に、大きな差があるのが今の日本の課題なのです。多くの生徒が理数系に興味はあるものの(約42%)、それが仕事への「情熱」や「目標」にまでなっていないのが現状と言えるでしょう。

 これは、子どもたちが「知識」はたくさん持っているけれど、その知識が「現実の世界でどう役立つのか」「どんな面白い世界が待っているのか」を体験する機会が圧倒的に少ない、ということを示しています。例えば、授業で難しい計算の仕方を習っても、それがAIの開発やロケットの計算にどうつながるのか、具体的に想像するのは難しいかもしれません。

 この「知っている」と「やってみたい」の差をなくすには、私たち大人、特に企業の人事や労務を担当する皆さんが、とても大切な役割を果たすことができます。ただ「算数や科学の勉強を頑張りなさい」と伝えるだけでは不十分です。企業が学校と積極的に協力して、若い人たちが理数系分野の「魅力」や「可能性」を直接体験できる場所を提供することが、とても大切です。

 具体的には、次のような取り組みが考えられます。

  • 会社訪問やインターンシップを増やす: 実際に研究開発の現場やエンジニアの仕事場を見学してもらい、最先端の技術に触れる機会を作ります。「こんなすごいものが、科学の力で生まれるんだ!」という感動は、何よりも強いやる気につながります。夏休みなどを利用して、短い期間の職場体験なども良いでしょう。
  • 実験教室やワークショップを開く: 企業が持つ専門的な道具や知識を使って、子どもたちが「手を動かして考える」実験教室を企画します。例えば、プログラミング体験、ロボット作り、環境問題を解決する科学実験など、座って勉強するだけでは味わえない「できた!」という達成感を体験してもらいます。
  • 社員による出張授業や講演: 企業の第一線で活躍する科学者や技術者が学校に行き、自分の仕事の面白さや、算数や科学が社会でどう役立っているかを話す授業です。直接話を聞くことで、生徒たちは将来どんな仕事があるのか想像しやすくなります。「この人みたいになりたい!」という憧れは、大きな力になります。
  • 教材を一緒に開発したり、研究をサポートする: 学校と企業が協力して、より実践的で魅力的な理数系の教育プログラムを作ります。企業が抱える実際の課題をテーマにした「プロジェクト型学習」(PBL)は、生徒たちの「なぜ?」「どうすれば?」という探究心を大きく刺激するでしょう。
  • ロールモデル(目標となる人)との交流機会を作る: 理数系分野で活躍する、さまざまな年代や性別のロールモデル(特に女性の研究者や若い技術者など)と直接話す機会を設けることで、生徒たちは「自分にもできるかもしれない」という希望を持ちやすくなります。

 若い人たちが知識を持っているだけでなく、「それを使って何ができるか」「どんな新しい価値を生み出せるか」を知ることができれば、彼らの将来の選択は大きく変わるはずです。未来を担う子どもたちの可能性を最大限に引き出すために、企業と学校が力を合わせて、実践的な学びの場を作り、彼らの情熱の芽を育てていきましょう。これは単なる社会貢献だけでなく、企業の未来を支える優秀な人材を確保するための、大切な投資でもあると言えます。

クリティカルポイント(一番大切なこと)

 日本の若い人たちは、算数や科学の力が世界的に高いのに、理数系の仕事を選ぶ人が少ないという問題は深刻です。これは、単に知識を教えるだけでなく、その知識が社会でどう役立ち、どんな面白さがあるのかを実際に体験する機会が足りないためです。この状況を放っておくと、将来、新しいものを生み出す人材が不足したり、国際的な競争力が落ちたりする可能性があります。

反証・課題(うまくいかない可能性と乗り越えるべき壁)

  • 学力テストだけでは測れないこと: PISAのような学力テストの点数だけでは、生徒の興味や「もっと知りたい」という気持ちは測れません。テストで良い点を取るための勉強と、理数系分野への深い興味を育てる勉強は、必ずしも同じではないという課題があります。
  • 学校の先生の負担: 企業と協力したり、実践的な学びを取り入れたりすると、先生たちの準備や負担が増えるかもしれません。今の授業とどう両立させるか、先生たちへのサポートをどうするかを考える必要があります。
  • 企業の考え方を変えること: 企業側も、単なる宣伝活動ではなく、「未来の社会を担う人材を育てるための長期的な投資」として、教育への協力(連携)を捉える必要があります。すぐに結果が出なくても、長く続けて協力していくことが求められます。