第18章:未来を拓く力:問題を見つける大切な力

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 2050年の未来で、私たちの会社や社会に特に必要とされる力が「問題を見つける力」です。

 これは、ただ目の前にある、はっきりと分かっている問題を見つけるだけではありません。むしろ、まだ誰も気づいていない、隠れている問題や、これから起こりそうな問題を早く見つけて、それをはっきりさせる、とても先を見通す力のことです。

 今の社会は、変化のスピードがとても速く、物事も複雑になっています。このような時代に、ただ言われた問題を効率よく解決するだけでは、会社は生き残れません。誰もまだ気づいていない「本当に解決すべき問題」を見つけて、それをはっきりさせる力こそが、会社や個人が長く成長し、他の会社に負けないための大切な源になります。

 正しい問題が分かって初めて、効果的で新しい解決策が生まれます。問題の捉え方が間違っていたら、どんなに素晴らしい解決策も良い結果にはつながりません。

 では、この未来を切り開く「問題を見つける力」は、どのように育てて、使っていけば良いのでしょうか。そのやり方は、いくつかのステップに分けられます。

問題を見つけるためのステップ:未来を読み解く道のり

1. 周りを見て「あれ?」と感じる

 問題を見つける最初のステップは、毎日の仕事や生活の中で「あれ?」「ちょっとおかしいな」「もっと良い方法があるはずだ」といった小さな違和感に気づく力を磨くことです。これは、ただいつも通りに作業をするのではなく、常に「なぜこうなっているのだろう?」「本当にこれで一番良いのかな?」と考えながら周りを見る習慣から生まれます。

 たとえば、お客さんからの苦情が特定の時期に増える、社内でデータを入力するのに無駄な手間がかかっている、といった具体的な「兆候」を見逃さないことが大切です。

2. 深く考える「問い」を立てる

 「あれ?」と感じたら、次に「なぜ?」という問いを何度も繰り返しましょう。表面的なことにとらわれず、「この違和感はどこから来ているの?」「その原因の、さらに奥にある原因は何?」と深く掘り下げて考えていくのです。

 たとえば、お客さんの買い物回数が減っているという現象に対して、「なぜ減っているのかな?」「値段のせい?それともサービスのせい?」「お客さんは他に何を求めているの?」と色々な角度から問いを立て、仮説を考えることが重要です。

3. 本当の「根本原因」を探る

 問いを重ねていくことで、表面的な症状の裏に隠された、本当の根本原因を探します。

 たとえば、会議で発言が少ないという症状に対して、「準備不足」という答えだけでなく、「発言しても無駄だと感じている」「意見を受け入れてもらえない雰囲気がある」といった、より深い会社の文化の問題や、心の壁にたどり着くかもしれません。この段階では、数字のデータだけでなく、現場で働く人の声や気持ちといった、目には見えにくい情報も大切になります。

4. 解決すべき「本当の問題」をはっきりさせる

 根本原因が分かったら、それを解決すべき「本当の問題」としてはっきりと言葉にしましょう。この問題の定義が具体的であればあるほど、解決策も考えやすくなります。

 「会議での発言を増やす」ではなく、「社員が安心して自由に意見を言える、心の安全な会議の雰囲気を作る」といったように、あいまいではなく、行動に移しやすい形にすることが成功の鍵です。

5. 「優先順位」をつけて、何に集中するか決める

 最後に、見つかったたくさんの問題の中から、会社にとって一番重要で急ぎの問題を選び、そこに集中します。すべての問題を同時に解決することはできないので、使える資源やどれくらい影響があるかを考えて、最も大きな効果がある問題から取り組む優先順位をつけましょう。

 たとえば、今すぐの売上低下につながる問題と、将来の社員のやる気に関わる問題では、対応の仕方や急ぎ具合が違います。戦略的な視点を持って判断することが求められます。

 このように、問題を見つける力は、すぐに身につくものではなく、日々の意識と練習、そして会社全体のサポートがあってこそ育つものです。

会社全体で問題を見つける力を高めるために

社員が「なぜ?」と問い続ける文化を作る

 問題を見つける力を育てるのは、個人の努力だけに頼るものではありません。人事労務担当者の皆様には、社員一人ひとりが「なぜ?」と問いかけ、今のやり方に疑問を持ち、もっと良い方法を考える姿勢を応援する会社の文化を作ることが求められます。

 たとえば、定期的にアイデアを出し合う機会を作ったり、部署をこえたプロジェクトチームを作ったりすることで、色々な視点から問題を見つける機会を増やせます。また、失敗を恐れずに新しいアイデアや問題提起ができるような、心の安全が保たれた環境作りもとても大切です。問題を指摘することが、批判ではなく、会社を良くするための建設的な提案として歓迎される雰囲気こそが、社員が自ら問題を見つける力を引き出します。

色々な視点を取り入れる仕組みを作る

 自分の部署や会社だけの視点では、見過ごしてしまう問題がたくさんあります。違う部署のメンバーと定期的に話し合う機会を設けたり、お客さんの声を直接聞くためのアンケートや聞き取り調査を積極的に行ったりすることで、新しい問題のヒントに気づくことができます。

 他の会社の動きや、業界の流行、社会の変化といった外の環境にも常に目を向け、自分の会社の課題と結びつけて考える習慣も有効です。たとえば、他の部署の仕事を体験する「シャドウイング」制度や、お客さんと直接会う「お客さん訪問デー」などを作ることで、社員が普段触れない情報や視点に接する機会を作れます。

 人事労務担当者の皆様には、社員が安心して問題提起し、その解決に向けて自分から行動できるような会社の土台を整える役割が期待されています。問題を指摘することが批判ではなく、改善への第一歩として評価される環境を作りましょう。

 一人ひとりが問題意識を持ち、それをみんなで共有できる会社は、変化に強く、常に進化し続けます。問題を見つける力を会社の競争力に変える。それこそが、先の読めない未来を勝ち抜くための、最も強力な武器となるのです。

大切なポイント

 問題を見つける力は、これからのビジネス環境でとても必要な力ですが、それを実行するにはいくつか大切なポイントがあります。

  • 目の前のことだけにとらわれる誘惑: 今すぐ対応が必要な問題ばかりに気を取られ、本当の根本原因や隠れた問題を見過ごしてしまうことがあります。短期的な結果を急ぎすぎる会社では、この傾向が強まります。
  • 「問題指摘者」への悪い見方: 会社によっては、問題を指摘する人が「批判ばかりする人」と見られ、損をしてしまうことがあります。このような文化では、問題が隠されてしまい、成長のチャンスを失ってしまいます。
  • 知識や経験の偏り: 特定の分野の知識や経験に偏っていると、問題を見つけられる範囲も狭くなります。色々な視点や知識がないと、画期的な問題を見つけるのは難しいです。
  • 行動に移すのが難しい: 問題を見つけても、それを具体的な行動計画や解決策につなげられない場合があります。ただの「不満」で終わってしまうと、会社にとって価値は生まれません。

疑問点・課題

 問題を見つける力の大切さは広く知られていますが、その育成や実践には常に課題や反対意見がつきものです。

  • 「それは本当に問題?」という反対意見: 見つかった問題が、他の人から見れば「今のままで良い」と判断されることもあります。問題が本当に問題なのかを客観的に判断する基準を作るのが難しい場合もあります。
  • 時間やお金の制約: 問題を見つけるには時間やお金が必要ですが、特に中小企業や忙しい部署では、それに割く余裕がないと感じることがよくあります。日々の仕事に追われ、根本的な問題に取り組む時間が取れない、という声は根強いです。
  • 昔の成功体験から抜け出せない: 昔の成功体験が強い会社ほど、新しい問題の存在や、今のやり方の問題点を受け入れにくい傾向があります。「今までこれでうまくいったから」という考えが、問題を見つける上での障害になることがあります。

結果が出ないと意味がない?: 「問題を見つけるだけではダメ、解決策を示せ」というプレッシャーは常にあります。問題を見つける過程を評価せず、すぐに結果を求める風潮は、社員のやる気をなくす原因となります。問題を見つけること自体を価値として認める文化が必要です。