第41章:大学の力を強くして、お金の土台を固める:未来を育てる学校を応援するために
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未来を支える人たちを育てる大学の役割は、とても大きいです。でも、良い教育や研究を続けていくためには、大学自体がしっかりと運営できて、安定したお金の流れがあることが大切です。まるで、丈夫な社会の土台を作るように、大学がずっと良い学びの場を提供できるよう、私たちみんなで応援していく必要があります。
私たちは、大学をただの「勉強する場所」と思いがちですが、実は大きな組織で、動かすにはたくさんのお金と、先のことを考えた計画が要ります。優秀な先生を呼び、一番新しい研究設備を揃え、学生が安心して学べる環境を作るには、しっかりとしたお金の土台と、それを支える柔軟な運営力(経営力)が欠かせません。この章では、日本の大学が今直面しているお金の問題と、それを乗り越えて、未来につながる教育や研究機関として光り輝き続けるための具体的なアイデアを、じっくりと見ていきましょう。
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大学のお金が直面している、厳しい現実
日本の大学、特に国が長く支えてきた国立大学は、近年、運営に使うお金(運営費交付金)が少しずつ減らされるという厳しい状況にあります。これは、大切な建物の柱が少しずつ削られていくようなものです。その結果、教育の現場では困ったことがいろいろ起きています。例えば、長年教育や研究を支えてきたベテランの先生のポストが減ったり、新しい研究を始めるためのお金が足りなくなったり、学生たちが毎日使う校舎や研究施設が古くなったまま放置されたりする様子が、あちこちで見られます。これらの問題は、教育の質や研究の進みに直接悪い影響を与えかねません。
さらに、私立大学もまた、別の形で大きな課題を抱えています。少子化の影響で、大学に行きたいと考える若い人の数が減っています。これは、私立大学にとって、学生の数、つまり一番の収入源が細ることを意味します。学生が集まらなければ、大学の運営は立ち行かなくなり、最悪の場合、閉鎖してしまう大学も出てくるかもしれません。このような厳しい状況を何とかし、未来に向けて元気な大学であり続けるためには、これまでのやり方にとらわれず、お金の集め方を増やしたり、組織としての運営の仕組み(ガバナンス)を根本から見直したりすることが、今すぐにでも必要です。
例えば、ある地方の国立大学では、運営費交付金が減らされたことで、非常勤の先生が増え、学生一人ひとりへの丁寧な指導が難しくなるケースが報告されています。また、私立大学では、学生が集まらない学部をなくしたり、内容を変えたり、社会人の学び直し(リカレント教育)のための新しいプログラムを始めたりして、経営を多様化しようと積極的に取り組んでいます。
研究に使うお金の源を増やし、大学をもっと元気に
大学が、国から支給される運営費交付金や私立大学への助成金だけに頼りきりでは、いつまでも不安定な状態から抜け出せません。まるで、水道の蛇口が一つしかない家のように、それが止まればすぐに困ってしまいます。そこで、大学は収入源をたくさん確保し、いろいろな方法でお金を集める「自分でお金を稼ぐ力」を強くする必要があります。
具体的な方法としては、まず企業からの共同研究費をもらうことが挙げられます。企業が抱えている問題を大学の研究力で解決し、そのお礼としてお金をもらう、企業と大学、両方にとって良い関係です。次に、企業や個人からの寄付金もとても大切です。特定分野の研究や、学生のための奨学金制度など、「応援したい」と考える人たちの思いに応える形で資金を集めます。大学で生まれた画期的な技術や特許(知的財産)を企業に提供し、そのお礼として収入を得る「知的財産収入」も、大きな可能性があります。さらに、社会人の学び直し(リカレント教育)のニーズに応える教育プログラムを提供し、その受講料を収入とする方法もあります。これは、社会のためにもなり、お金も確保できる素晴らしい取り組みです。
加えて、世界中の優秀な留学生や研究者を積極的に受け入れることも、大学のお金のもとを強くすることにつながります。彼らが払う授業料や、彼らと一緒に獲得する国際的な研究プロジェクトのお金は、大学の収入を増やすだけでなく、大学の世界での評価を高めることにも貢献します。例えば、シンガポール国立大学のように、政府からの支援に加えて、世界的な企業との大きな共同研究や、卒業生からの多額の寄付によって、お金の土台をしっかりさせている例は、日本にとっても参考になるでしょう。
これらの取り組みは、大学が自分の力を最大限に引き出し、社会からの期待に応え続けるための大切な一歩となります。お金の源を増やすことは、大学が自由に研究活動を続けることを助け、新しいアイデアが生まれる土台を育むことにもつながるのです。
大学運営の仕組みを大きく変える「ガバナンス改革」
大学が素早く柔軟に物事を決め、時代の変化に対応するためには、組織としての運営の仕組み、つまり「ガバナンス」を根本から見直す必要があります。これは、古くなった船のかじ取りを、もっと性能の良い最新システムに替えるようなものです。
具体的には、まず大学のトップである学長のリーダーシップを強くし、大学全体の進む方向をはっきりと示し、力強く進められる体制を築くことが求められます。次に、大学の大切なことを決める「理事会」の役割を充実させ、外部の専門家や詳しい人たちも積極的に参加してもらうことで、より客観的で多様な視点からの意見を経営に取り入れます。例えば、企業経営の経験者や弁護士、公認会計士などを理事に迎えることで、財務やリスク管理など、これまで大学が苦手としてきた分野の専門知識を取り入れることができます。これにより、物事を決めるスピードがこれまで以上に速くなり、大学が社会のニーズや変化に素早く対応できるようになります。例えば、世界とのつながりが深まることや、デジタル技術が急速に進むことに対応した新しい学部や研究科を作ったり、今のカリキュラムを大胆に見直したりすることも、素早い運営の仕組みがあればこそ実現可能になります。
社会と手を取り合う「企業などとの連携強化」
大学は、研究の成果を社会に役立て、社会の発展に貢献する大切な役割を担っています。その一つの鍵となるのが、企業などの産業界とのつながりを、もっと深くすることです。
企業からの共同研究プロジェクトへのお金を増やしてもらったり、企業がお金を出して大学の中に特定の研究分野の講座を作る「寄付講座」を多く受け入れたりすることで、大学は新しい研究費を得るとともに、企業の持つ具体的な課題やニーズを研究に活かすことができます。例えば、製薬会社と大学の医学部が新しい薬の開発で一緒に研究を進めたり、IT企業がAI技術開発のための寄付講座を開設したりする例は、その良いお手本です。
また、企業が「今、どんな人が必要なのか」という現場の生の声やニーズを、大学の教育プログラムに取り入れることもとても重要です。これにより、学生たちは卒業後すぐに社会で活躍できる力を身につけることができ、企業もまた、自分の会社に必要な人材を大学から迎え入れやすくなります。これは、学生の就職活動を力強く応援するだけでなく、大学自身の安定した収入源を確保することにもつながる、まさに一石二鳥のアイデアと言えるでしょう。
世界に開かれた大学を目指す「国際化を進める」
これからの時代、大学は日本の中だけでなく、世界へと目を広げることが欠かせません。国際化は、大学の魅力を高め、多様な知識が集まる活気ある場所を作り出します。
まず、海外から優秀な学生や研究者を積極的に受け入れることは、大学に新しい考え方や文化をもたらし、研究の質を高める上でとても良いことです。彼らが払う授業料は、大学のお金の一つになります。また、海外からの学生が日本で生活費を使ったり、買い物をしたりすることで、地域の経済にも貢献します。同時に、英語での授業を増やしたり、海外の大学や研究機関と共同研究を積極的に進めたりすることで、大学全体の世界での競争力が高まります。
このような国際的な環境は、日本の学生にとっても、世界的な感覚を身につけ、多様な文化や考え方に触れる貴重な機会を与えてくれます。例えば、欧米の有名大学では、留学生の割合がとても高く、その国際色豊かな環境が大学の評価をさらに高めています。日本の大学も、国際化を進めることで、世界トップレベルの研究拠点としての地位を確立し、より多くのお金や人材を呼び込むことができるようになるでしょう。
社会人の「学びたい」気持ちを支える「社会人教育を充実させる」
今の社会は変化が速く、一度学んだ知識や技術だけでは、長く活躍し続けることが難しい時代です。そこで、社会に出てからも学び続けたいという社会人のニーズに応えることが、大学の新しい役割として注目されています。
「リカレント教育」とは、社会人が仕事と勉強を繰り返す教育のことで、「リスキリングプログラム」は、新しい技術を身につけて、仕事を変えたり、今の仕事をより良くしたりするための教育です。これらのプログラムを大学が充実させることで、社会人たちは自分のキャリアを新しく作り直したり、新しい分野に挑戦したりすることが可能になります。例えば、AIやデータサイエンス、DX(デジタル変革)といった、企業が求める最新の技術を学べる短期間の集中講座は、社会人にとって非常に魅力的です。
大学は、このような社会人向けのプログラムを提供することで、単に社会のニーズに応え、人々の生涯にわたる学習を助けるという社会的な役割を果たすだけでなく、その受講料を大学の新しい収入源とすることができます。これは、大学のお金の土台を多様化し、安定させるための大切なアイデアの一つです。すでに、多くの大学でビジネススクールや専門職大学院、公開講座などを通じて社会人教育に力を入れており、地域社会や企業などとの連携を深めることで、その存在感を高めています。
大学の運営力(経営力)を強くし、安定したお金の土台を築くことは、単に「お金の問題を解決する」という以上の大きな意味を持っています。それは、優秀な先生が安心して研究に集中できる環境を作り、一番新しい研究設備をいつも揃え、そして何よりも、学生一人ひとりに最高の質の高い教育を提供するための「土台」を作ることに他なりません。経済的に安定した大学だからこそ、自由な発想に基づいた挑戦的な研究が生まれ、未来を切り開く新しい発見や技術(イノベーション)が花開くのです。
私たち人事労務担当者の皆様には、この大学の運営力強化という大きな流れの中で、大切な役割を果たすことが期待されています。単に「人を採用する」という視点だけでなく、大学との様々な連携を通じて、大学の運営を間接的に、あるいは直接的に支援することが求められています。具体的には、自社の研究テーマに合う大学との共同研究に積極的に投資したり、特定の専門分野の教育を応援するための寄付講座を大学に開いたり、また社員のスキルアップのために大学の社会人教育プログラムを積極的に活用したりするなど、いろいろな支援が考えられます。このような企業と大学の協力関係は、長い目で見れば、企業が求める優秀な人材を安定して確保することにもつながります。大学が強く、質の高い教育を提供できれば、そこから生まれる人材は、社会全体の元気になり、最終的には私たち企業の成長にも貢献するでしょう。大学と企業が互いに支え合い、共に成長する「共創の関係」を、今こそ築き上げていきましょう。
クリティカルポイント:大学が「ずっと元気に運営できる組織」であるために
大学が、単なる知識を伝える場所ではなく、未来を創造する「知恵の中心地」であり続けるためには、自分で経営していける力が必要です。国への頼り度を減らし、いろいろな方法でお金を集めることは、大学が自分の考えに基づき、柔軟かつ素早く教育や研究の計画を進めるための命綱となります。特に、社会の変化が激しい現代において、素早い判断を可能にする運営の仕組み(ガバナンス)改革は、大学が生き残りをかけた大切な要素です。先生や研究者の確保、設備へのお金、学生への手厚いサポートなど、質の高い教育や研究を提供するための土台は、しっかりとしたお金と運営の上に成り立っていることを、私たちは知っておく必要があります。
反証・課題:大学の自由と、市場の競争のバランス
- 自由が失われる心配企業からの共同研究費や寄付が増えると、大学のお金は増えますが、同時に研究テーマが企業の考えに左右され、大学本来の基礎研究や自由な学問を追求する邪魔になる可能性があります。市場の競争原理が過度に入り込むことで、すぐに利益につながらない人文科学や基礎科学分野が軽く見られる心配も指摘されています。大学は、お金を集めることと、学問の自由というバランスをどう保つべきでしょうか?
- 地域ごとの格差が広がるお金を集める力や、世界とのつながりを進める力は、大学によって大きな差が出る可能性があります。都会の有名な大学は有利ですが、地方の大学は、お金を集めたり、優秀な人材や学生を確保したりするのが、より一層難しくなるかもしれません。結果として、大学教育の地域ごとの格差が広がり、地域を元気にする大学の役割が弱まる可能性はないでしょうか?
- 社会人教育の質と、ニーズのズレ社会人教育を充実させることは大切な収入源になりますが、大学が社会の急速なニーズの変化にいつも追いつき、質の高いプログラムを提供し続けられるかには課題が残ります。また、単なる資格取得や技術向上に偏りすぎると、大学ならではの深い学びや、人として幅広い教養を身につける教育といった大切な価値が見失われる可能性もあります。
運営の仕組み改革の難しさ学長のリーダーシップを強くしたり、外部の人材を招いたりすることは有効ですが、大学特有の文化や先生方からの反対、物事を決める過程の複雑さなどにより、改革が形だけで終わってしまうリスクも存在します。本当に効果のある運営の仕組み改革をどのように実現していくかが問われます。

