第34章:社員の「やる気」と「つながり」を高める工夫
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この章では、社員が会社を「自分の大切な場所」と感じ、進んで貢献したいと思う気持ち、つまり「社員のやる気や愛着(エンゲージメント)」について深く見ていきます。社員のやる気や愛着が高い会社は、まるでみんなが同じ目標に向かって協力し合う、強いチームのようです。これは単に「満足している」というだけでなく、一人ひとりの社員が仕事に情熱を注ぎ、会社の成功を自分のことのように考える状態を指します。社員がこのような気持ちを持つと、会社全体に良い影響が広がり、仕事の効率アップ、優秀な人材の定着、お客様の満足度向上といった、目に見える成果につながっていくのです。
では、社員のやる気や愛着を高めるには、具体的にどんなことが大切なのでしょうか?主な6つのポイントと、具体的な取り組みを見ていきましょう。
コンテンツ
- 0.1 会社の状況を隠さない:透明性の高いコミュニケーション
- 0.2 「ありがとう」「よくやった!」:ちゃんと認めて評価する
- 0.3 未来のための投資:成長できるチャンスを提供する
- 0.4 「自分で考えて動く」楽しさ:自律性を大切にする
- 0.5 「何のために働くのか」:仕事の意味を共有する
- 0.6 心と体の健康:仕事とプライベートのバランスを保つ
- 0.7 仕事の効率がぐんと上がる理由
- 0.8 優秀な人材が会社に残る秘密
- 0.9 会社の利益が着実に増える仕組み
- 1 短期間の取り組み:今日から始められる小さな一歩
- 2 長期間の取り組み:未来を見据えた地道な努力
- 3 クリティカルポイント:社員のやる気や愛着を高める取り組みがうまくいくかどうかの鍵
- 4 反証・課題:社員のやる気や愛着を高める取り組みに潜む落とし穴と乗り越え方
会社の状況を隠さない:透明性の高いコミュニケーション
社員は、自分が働く会社がどこへ向かっているのか、今どうなっているのかを知りたいと思っています。会社のトップが、会社の目標や現状(良いことも大変なことも含めて)を正直に伝えることで、社員は「自分もチームの一員だ」という強い気持ちを持つことができます。例えば、定期的な全体会議で社長が直接話したり、社内報や社内ネットで詳しい情報を伝えたりするなどの工夫が効果的です。これにより、社員は会社の方針を理解し、自分の仕事が全体の目標にどう役立っているかを実感できるようになります。
「ありがとう」「よくやった!」:ちゃんと認めて評価する
人は誰でも、自分の努力が認められ、成果が正しく評価されるとうれしいものです。日々のちょっとした貢献から、大きなプロジェクトの成功まで、社員の働きを「しっかり見ているよ」と伝えることがとても大切です。具体的な言葉で感謝を伝えたり、会社全体で表彰する機会を設けたり、昇進や給料アップといった形で努力に報いたりすることで、社員は「自分の仕事には価値がある」と感じ、次のやる気へとつながります。例えば、週に一度のチーム会議で「今週頑張ったこと」を伝え合ったり、同僚同士で感謝のメッセージを送り合う仕組みを作ることも効果的です。
未来のための投資:成長できるチャンスを提供する
今のビジネスの世界は変化が激しく、社員も常に新しいスキルを学び、キャリアを築いていきたいと願っています。会社が社員の成長を積極的に応援することは、社員の能力アップだけでなく、会社全体の力を強くすることに直結します。例えば、仕事に必要な専門知識を深めるための研修、新しい分野に挑戦できる社内公募制度、リーダーになるための先輩社員からの指導制度など、たくさんのチャンスを提供しましょう。社員が「この会社でなら、自分はもっと成長できる」と感じることが、やる気や愛着を高める重要なポイントとなります。
「自分で考えて動く」楽しさ:自律性を大切にする
上からの指示をただこなすだけでは、仕事はつまらなくなりがちです。社員に一定の権限を与え、「どうすればもっと良くなるか」を自分で考え、行動する機会を提供することで、主体性が育ち、仕事への責任感と満足度が上がります。例えば、プロジェクトの進め方をチームに任せたり、新しいアイデアを自由に提案できる場を設けたりすることが考えられます。社員が「自分のアイデアが形になる」「この仕事は自分が責任を持って進める」と感じることで、仕事への本気度はぐんと高まります。
「何のために働くのか」:仕事の意味を共有する
社員は、自分の仕事がただの作業の繰り返しではなく、社会やお客様にどんな良いことを提供しているのかを知りたいと思っています。会社の理念や目指す姿をはっきり伝え、社員一人ひとりの仕事がその達成にどう役立っているかを具体的に示すことで、仕事に対する誇りや目的意識が深まります。例えば、お客様からの感謝の声を紹介したり、自社製品やサービスが世の中の困りごとを解決している例を伝えたりすることが効果的です。社員が「自分の仕事は誰かの役に立っている」と感じられる環境は、やる気や愛着を強く後押しします。
心と体の健康:仕事とプライベートのバランスを保つ
仕事だけでなく、プライベートも充実させることで、社員は心身ともに健康でいられます。そして、その健康な状態でこそ、最高のパフォーマンスを発揮できるのです。会社が仕事とプライベートのバランスを大切にし、柔軟な働き方を応援することは、社員の幸福度を高め、結果としてやる気や愛着の向上につながります。例えば、残業を減らす、有給休暇を積極的に使うように促す、子育てや介護と両立しやすい制度を整える、リモートワークやフレックスタイム制度を導入するなどが挙げられます。社員が安心して長く働ける環境を提供することが、会社への信頼と愛着を育みます。
これらの点が満たされることで、社員は会社に対して強い信頼と「もっと頑張りたい」という気持ちを抱くようになります。では、やる気や愛着が高い会社が実際にどれほどの力を発揮するのか、具体的なデータからその影響を見ていきましょう。
仕事の効率がぐんと上がる理由
ある調査によると、社員のやる気や愛着が高い会社は、そうでない会社に比べて、仕事の効率が約3.8倍も高いという結果が出ています。これは、社員一人ひとりが「やらされ仕事」ではなく、「自分の仕事」として捉え、自ら工夫し、積極的に問題を解決しようとするからです。例えば、やる気や愛着の高いチームでは、メンバー同士の協力が自然と生まれ、問題が起きてもすぐに情報を共有し、一番良い解決策を見つけ出すことができます。
優秀な人材が会社に残る秘密
やる気や愛着が高い会社では、社員の会社への満足度が高いため、辞めてしまう人の割合が約59%も減ることが示されています。社員は「この会社で働き続けたい」「この仲間と一緒に成長したい」という強い仲間意識を持つため、簡単に会社を辞めません。これにより、採用や研修にかかるお金が減るだけでなく、長年の経験と知識を持つベテラン社員が会社に残り、若い社員の育成にも貢献するという良い循環が生まれます。優秀な人材の流出を防ぎ、安定した会社運営が可能になります。
会社の利益が着実に増える仕組み
社員のやる気や愛着が高い会社は、そうでない会社と比べて利益が約2.5倍も高いという研究結果もあります。社員のやる気がお客様へのサービス向上に直結し、それがお客様の満足度を高め、何度も利用してくれるお客様が増えたり、口コミで新しいお客様が来たりすることにつながるからです。例えば、やる気や愛着の高い営業担当者は、お客様の困りごとを深く理解し、期待を超える提案をすることで、お客様からの信頼を得やすくなります。このように、社員の「会社のために頑張りたい」という気持ちが、会社のブランドイメージアップと売上アップに直接的な影響を与えるのです。
社員のやる気や愛着を高めることは、会社にとって単なる「良いこと」ではなく、事業を成長させるための「なくてはならない戦略」だと言えるでしょう。
社員のやる気や愛着を高めるための取り組みは、すぐに効果が出る「短期間の取り組み」と、時間をかけて会社の文化を育む「長期間の取り組み」に分けられます。どちらもバランス良く行うことが大切です。
短期間の取り組み:今日から始められる小さな一歩
すぐに効果を感じやすく、社員の満足度向上に直接つながる取り組みです。まずはここから始め、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。
- 定期的な1対1ミーティング(1on1ミーティング):上司が部下と一対一で話し合い、仕事の悩みや将来の相談に乗る時間です。これにより、信頼関係が深まり、一人ひとりの社員の状況に合わせたサポートが可能になります。
- 感謝や褒め言葉を伝える文化作り:日々の仕事の中で、お互いの良い点や努力を認め合う「サンクスカード」の導入や、朝礼での「良いニュース共有」など、前向きな言葉が飛び交う環境を作りましょう。
- 職場の環境改善:机の周りの片付け、快適な休憩スペースの設置、BGMの導入、観葉植物を置くなど、物理的な環境を少しでも心地よくする工夫も重要です。
- チームで交流する活動:ランチ会、部活動、社内イベントなどを企画し、仕事以外の交流を促すことで、チームの一体感を高め、コミュニケーションをスムーズにします。
- 意見への素早い対応:社員からの意見や提案、改善してほしいことに対して、できるだけ早く具体的な返事をすることで、「自分の声が届いている」という実感を促します。
長期間の取り組み:未来を見据えた地道な努力
会社全体の土台を強くし、社員のやる気や愛着を持続的に高めるための、根本となる取り組みです。時間をかけてじっくりと行うことで、しっかりとした会社の文化が築かれます。
- キャリアアップ支援の充実:社員一人ひとりのキャリアプランを応援するため、社外研修への参加費用補助、資格取得の支援、社内でのキャリア相談などを提供します。
- 公平で納得できる評価制度作り:評価の基準をはっきりさせ、透明性の高い評価プロセスを確立することで、社員は「正しく評価されている」と感じ、努力が報われる喜びを実感できます。
- リーダーシップ教育:管理職がメンバーのやる気を高め、成長を応援できる「コーチング型リーダーシップ」を学ぶ研修を導入し、会社全体のリーダーシップ力を向上させます。
- 会社の目指す方向を伝える:会社の存在意義や目指す未来を、あらゆる機会を通じて社員に繰り返し伝え、共感と一体感を育てます。新入社員研修から経営会議まで、常に会社の目標を意識させる工夫が必要です。
- 働き方改革を進め、柔軟性を高める:多様な働き方(リモートワーク、フレックスタイム、短時間勤務など)を認める制度をさらに進化させ、社員が自分らしく働ける選択肢を増やし続けます。
社員のやる気や愛着を高めることは、魔法のように一瞬でできるものではありません。しかし、日々の小さな改善を地道に積み重ね、社員の声に耳を傾け続けることで、会社は確実に良い方向へと変わっていきます。一番大切なのは、経営層から現場で働く一人ひとりの社員まで、全員がやる気や愛着の重要性を心から理解し、それぞれの立場で行動を起こすことです。人事担当者の皆様は、この変化をリードする役割として、様々な取り組みを計画し、実行する重要な役割を担っています。
定期的に社員アンケートを行い、今の状況を把握し、どこに課題があるのかを見つけ、それに対して具体的な対策を立てる。この「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」というPDCAサイクルを粘り強く回し続けることが、やる気や愛着を持続的に高め、ひいては会社の成長へとつながります。社員一人ひとりが「この会社で働くことに誇りを持っている」「自分の仕事が社会に役立っている」と心から感じられる、そんな活気あふれる会社を、私たちと共に創り上げていきましょう。
クリティカルポイント:社員のやる気や愛着を高める取り組みがうまくいくかどうかの鍵
社員のやる気や愛着を高める取り組みが成功するかどうかは、いくつかの重要な点にかかっています。まず、「会社のトップの本気度」が最も大切です。トップが、やる気や愛着を単なる人事のテーマではなく、会社を成長させるための大切な戦略と位置づけ、自ら率先してメッセージを発信し、具体的な行動を示すことが不可欠です。次に、「会社からの押し付けではなく、話し合いを通じた取り組み作り」が挙げられます。会社側が「これが良いだろう」と決めるのではなく、社員の声に真剣に耳を傾け、共に課題を見つけ、解決策を考えていくプロセスが大切です。例えば、社員代表を集めた話し合いや意見交換会を定期的に開催し、現場からの声をもとに取り組みを考えるような方法が効果的でしょう。最後に、「地道な努力と評価」です。やる気や愛着は一度高めたら終わりではなく、常に変化するものです。定期的なアンケートや意見交換を通じて現状を把握し、取り組みの効果を確かめながら、状況に合わせて改善を続ける粘り強さが求められます。これらの大切な点を押さえることで、形だけの取り組みに終わらず、本当に社員の心に響くやる気や愛着の向上を実現できるはずです。
反証・課題:社員のやる気や愛着を高める取り組みに潜む落とし穴と乗り越え方
社員のやる気や愛着の向上は理想的ですが、実際には様々な課題や誤解に直面することもあります。一つ目の課題は、「取り組みが形だけになること」です。例えば、1対1ミーティングが上司の「ノルマ」となり、形だけ実施されて中身が伴わない、あるいは「感謝を伝える文化」が義務的になり、心からのコミュニケーションが失われるといったケースです。これを避けるためには、取り組みの「目的」を繰り返し伝え、運用方法を柔軟に見直し、現場の状況に合わせた調整が必要です。
二つ目の課題は、「費用と効果が見えにくいこと」です。やる気や愛着を高める取り組みには人手もお金もかかりますが、その効果が数字としてすぐに現れにくいことがあります。会社のトップや現場の理解を得るためには、仕事の効率アップや辞める人の割合の低下といった具体的なデータを使って、長い目で見た費用対効果を粘り強く説明していく必要があります。社内アンケートの結果と会社の業績データを結びつけるなど、効果を見えるようにする工夫も有効です。
三つ目の課題は、「社員間の意識の違いと不公平感」です。同じ取り組みでも、部署や個人の状況によって受け止め方が異なり、「自分には関係ない」「特定の人ばかり優遇されている」といった不公平感が生まれる可能性があります。これを防ぐためには、取り組みが公平で透明性があることをしっかり伝え、様々なニーズに応えられるような柔軟性を持たせることが重要です。全員が同じように満足することは難しいかもしれませんが、少なくとも「なぜこの取り組みがあるのか」「どんな社員がどう利用できるのか」を明確に伝え、話し合いを通じて不満の解消に努めるべきでしょう。
これらの課題を認識し、計画段階から対策を考えることで、やる気や愛着を高める取り組みはより効果的なものとなり、会社全体の持続的な成長へとつながるはずです。

