第28章:若者の隠れた才能を見つける「特別な場所」を作ろう

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 私たちの毎日には、「第一の居場所」(家)と、「第二の居場所」(学校や職場)があります。でも、若者たちがもっと自由に、心ゆくまで自分の「好き」を追求したり、新しいことにチャレンジしたりできる「第三の居場所」が、今とても大切だと考えられています。この第三の居場所こそが、これからの社会を担う若者たちの「知りたい気持ち」や「何かを生み出す力」を育て、社会で活躍するための土台を作るカギになるのです。

 第三の居場所では、テストの点数や評価に縛られず、自分の「好き」を追いかけられます。失敗を恐れずに色々なことを試して、そこから学ぶことで、自分の中に眠る可能性を大きく広げることができるのです。これは、型にはまりがちな今の学校などでは得にくい、大切な成長のチャンスになります。

 では、具体的にどんな場所が第三の居場所になり得るのでしょうか。ここでは、その代表的な形と、それが若者にもたらす良い点について詳しく見ていきましょう。

イノベーションラボ(新しいものを生み出す実験室)

 ここでは、最新の技術や道具を誰もが自由に使うことができます。例えば、3Dプリンターで自分のアイデアを形にしたり、プログラミングを学んでオリジナルのアプリやゲームを作ったり、電子工作でロボットを組み立てたりできます。学校ではなかなか触れないような高度な機械や技術に触れることで、若者たちは実際に役立つスキルを身につけ、「ものづくり」の楽しさや、困りごとを解決する喜びを感じられます。ただ知識を覚えるだけでなく、「実際にやってみる」という体験が、彼らの創造力や探求心を刺激し、将来どんな分野に進みたいかを考えるきっかけになるでしょう。

学びのコミュニティ(仲間と学ぶ場)

 これは、同じ興味や目標を持つ仲間が集まって、一緒に学び、成長できる場所です。例えば、読書会で意見を交わしたり、あるテーマについて話し合う勉強会を開いたり、共同で何かを作り上げるプロジェクトを進めたりします。お互いに知識や技術を教え合ったり、時には「もっとこうしたらいいよ」とアドバイスし合ったりすることで、一人で学ぶよりもずっと深く理解でき、色々な見方ができるようになります。色々な考えを持つ仲間との交流は、人と話す力や協力する力を育むだけでなく、社会の中で多様な人を受け入れる心を養う上でも大切です。カフェのようなリラックスした雰囲気で、自然と学びが深まるのが特徴です。

メンターシッププログラム(先輩からアドバイスをもらう仕組み)

 これは、それぞれの分野で活躍している専門家や、社会で経験を積んだ先輩から、直接教えてもらえる貴重な機会です。例えば、今働いているエンジニアからプログラミングの相談に乗ってもらったり、デザイナーから作品集(ポートフォリオ)作りのアドバイスをもらったり、起業家(新しい事業を始める人)からビジネスのヒントをもらったりできます。メンター(指導してくれる先輩)は、若者たちの疑問に答え、具体的なアドバイスをくれ、時には彼らの将来の仕事について一緒に考えてくれる存在です。実際の仕事をしている人からの生きた知識や考え方は、若者たちが将来の仕事を具体的に想像する上でとても役立ち、彼らのやる気を高め、目標を達成するための道筋をはっきりさせる手助けとなります。

 これらの第三の居場所を作るためには、色々な人や組織が協力して取り組むことが大切です。それぞれが持つ得意なことや資源を活かすことで、もっと魅力的で効果的な居場所を提供できます。

企業からの協力

 企業が、自分たちの施設(例えば、使っていない会議室や研修スペース、開発室の一部など)を若者に開放したり、社員が持つ専門知識や技術を活かした体験教室を開いたりする方法です。これは、単に社会貢献(会社の活動を通じて社会を良くすること)にとどまらず、将来、会社を支える優秀な人材を見つけ、育てるチャンスにもなります。若者たちは企業の実際の雰囲気に触れ、その技術や文化を肌で感じることができます。企業側も、社会貢献活動として地域とのつながりを強め、会社の良いイメージを高める(ブランディング)だけでなく、若者たちの新しいアイデアから新たなビジネスのヒントを得られる可能性もあります。例えば、IT企業がプログラミング道場を開いたり、ものづくり企業が工場見学と小さなロボットを作る体験を提供したりすることが考えられます。

地域との協力

 地域の図書館、公民館、お店の空きスペース、さらには地域のカフェや公園といった公共の場所やお店を第三の居場所として使う方法です。地域の住民やNPO(非営利団体)、ボランティア団体などが協力し、運営に関わることで、地域全体で若者を温かく育む環境を作り出すことができます。例えば、図書館の一角に「探求学習コーナー」を設けたり、商店街の空きスペースを「若者向けクリエイティブスペース(創造的な活動ができる場所)」として活用したりすることも可能です。地域に根ざした活動は、若者たちが地域社会とのつながりを意識し、貢献したいという気持ちを高めるきっかけにもなります。地域のお祭りの企画に参加したり、地元の特産品を使った商品開発に挑戦したりする場を提供することもできます。

学校からの参加

 学校や大学が、通常の授業時間外や休日に校内の施設(理科室、図書室、体育館、パソコン室など)を開放し、決まったカリキュラムとは違う、もっと自由で探求的な学びの場を提供する方法です。これは、今ある学習環境を最大限に活用しながら、若者たちに新しい学びのチャンスを提供する良い方法です。例えば、大学の研究室を高校生向けに公開し、最新の研究に触れる機会を与えたり、高校が「放課後サイエンスクラブ」や「ディスカッションカフェ(話し合いの場)」を運営したりすることができます。学校が中心となることで、専門的な指導や安全な環境が確保されやすく、若者たちは安心して新しい学びやチャレンジに取り組むことができます。

 第三の居場所の最大の良い点は、若者が「失敗しても大丈夫」と感じられる、心から安心できる場所であることです。学校では、成績や評価が常にあるため、どうしても失敗を恐れてしまいがちです。しかし、第三の居場所では、失敗は次の成功へ進むための大切なステップとして前向きに受け止められます。自由にアイデアを出し、色々なことを試す中で、若者たちは「自分で考えて行動する力」「何かを生み出す力」、そして「失敗しても立ち直る力(レジリエンス)」を身につけることができます。これらの力は、これから何が起こるかわからない現代社会を生き抜く上で、なくてはならない大切な力であり、将来どんな道を選んだとしても、彼らの人生を豊かにする土台となるでしょう。

 人事労務を担当される皆様には、貴社がこの「第三の居場所」を提供する立場になる可能性を真剣に考えていただきたいと願っています。自社の技術力、施設、そして社員の専門知識を若者に開放することは、社会貢献(会社の活動を通じて社会を良くすること)活動として非常に大きな意味を持つだけでなく、企業の未来のファンを増やし、優秀な人材と早くからつながる絶好の機会にもなります。これは、単に「与える」だけでなく、若者の色々な見方や柔軟な発想が会社に新しい刺激をもたらす、お互いに助け合う関係(ギブ&テイク)を生み出す可能性を秘めています。未来の人材への投資は、社会全体の持続可能な発展への投資です。第三の居場所を通じて、若者たちが持つ無限の可能性を解き放ち、彼らが輝ける未来を一緒に作っていきましょう。貴社の積極的な参加が、日本の未来をより明るくすることにつながると確信しています。

クリティカルポイント(特に大切な点):第三の居場所はなぜ今、こんなにも必要とされているのか?

 今の社会は、技術がものすごい速さで進歩し、社会の様子も大きく変わっています。そのため、若者たちはこれまで誰も経験したことのない難しい問題に直面しています。学校教育だけでは教えきれない、色々なスキルや考え方、そして何よりも「自分らしく生きる力」を育む場所が必要とされています。第三の居場所は、これまでのやり方にとらわれずに学び、色々なことを試行錯誤し、多様な人々と交流することで、若者たちが未来を自分の力で切り開くための「実際に役立つ知恵」と「心の強さ」を育む上で、なくてはならない存在なのです。特に、誰もが同じように成功するモデルが崩れつつある今、一人ひとりが自分らしい価値を見つけ、それを追いかけられる自由な空間の価値は、計り知れないほど大きいのです。

反証・課題(疑問点や乗り越えるべき壁):第三の居場所の理想と現実、どう乗り越える?

  • 続くかどうか(持続可能性)の問題:第三の居場所を運営するには、場所の確保、設備への投資、人を配置すること、プログラムを開発することなど、たくさんの費用と手間がかかります。これらの負担を一つの組織だけで負うのは難しく、企業、地域、学校がどのように協力し、お金や資源を続けて確保していくかが大きな課題です。ボランティアの人たちだけに頼りすぎると、運営が不安定になる可能性もあります。
  • 参加できる人の差:第三の居場所が提供される場所や内容によっては、参加できる若者が限られてしまうかもしれません。情報が届きにくい、経済的な理由などで、第三の居場所に参加できない若者が増え、結果として新たな不公平を招いてしまう心配もあります。全ての子どもたちが公平に参加できるよう、お知らせを広めたり、交通手段を考えたり、参加費用を助けたりすることも考える必要があります。

教育システムとのつながり:第三の居場所での学びが、学校での勉強や将来の仕事とどうつながるのかがはっきりしない場合、若者や保護者の理解や参加したい気持ちが得られにくいことがあります。第三の居場所での経験が、学校の成績評価(内申点)や受験、就職活動などでしっかり評価されるような仕組みを作ることも大切です。例えば、学校が第三の居場所の活動を「単位」として認めたり、企業がその経験を評価する採用方法を取り入れたりするなどの工夫が求められます。