環境安全保障の時代へ、私たちの足取り
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さて、私たちが生きるこの時代、そしてほんの少し先の2050年頃の世界を想像してみると、環境問題と国家の安全保障が、もはや切り離せない一体のテーマとして、その姿を現していることに気づかされます。地球温暖化をはじめとする気候変動への対応能力こそが、これからの国々が存続し、そして繁栄していけるかどうかの分水嶺となる。私はそう感じています。
考えてみれば、私たちの生活に欠かせない水、食糧、エネルギーの安定的な確保は、もはや経済や福祉といった範疇に留まりません。これは、国家そのものの存立を脅かしかねない、最優先の安全保障課題として、各国が真剣に向き合うべき問題なのです。地球環境が大きく変化する中で、こうしたかけがえのない資源をいかに守り、国民の暮らしを未来へと繋いでいくか。それは、政府にとって最も重く、大切な任務となるでしょう。
この「環境安全保障の時代」が本格的に到来するにあたり、特に心に留めておきたい三つの側面があります。少し立ち止まって、じっくりと見ていきましょう。
忍び寄る「資源ナショナリズム」の影
一つ目に、いよいよ顕在化するであろう「資源ナショナリズム」の台頭です。世界人口は増え続け、経済活動も活発になる一方、水や食糧、そして希少鉱物といった資源は、年々貴重さを増していきます。そうなると、各国は自国の生存と発展を何よりも優先し、自国内の資源、あるいは自国で確保できる資源を、文字通り囲い込もうとする動きが強まるはずです。これが、資源ナショナリズムの根幹にある考え方と言えるでしょう。
具体的な場面を想像してみると、食糧を生産する国が、自国民の分を優先して輸出を厳しく制限したり、あるいは特定の水源を巡って隣国との間に緊張が高まったりする事態が、きっと頻発するに違いありません。石油や天然ガスといったエネルギー資源も、外交上の重要な「カード」として、その使い方が変わってくる可能性もあります。こうした保護主義的な政策が当たり前になってしまえば、国際的な協力関係は揺らぎ、地域によっては紛争のリスクが高まることも十分に考えられます。各国が自国の利益ばかりを追い求めるあまり、グローバルな協力体制が機能不全に陥るその可能性を、私たちは真剣に懸念すべきです。
避けられない「気候難民危機」という現実
二つ目は、もう目を背けることのできない「気候難民危機」という現実です。国連の予測では、2050年までに、気候変動が原因で故郷を追われる人々が、なんと2億人以上にも達するかもしれないと指摘されています。海面上昇で故郷が水没したり、長引く干ばつで農地が砂漠化したり、あるいは洪水や巨大なハリケーンによって住まいやコミュニティが根こそぎ破壊されたりするそれが、彼らが直面する過酷な現実なのです。
これほど途方もない規模の人口移動は、受け入れ国に、計り知れない社会・経済的負担を強いることになります。住居、食糧、医療、教育といった基本的なインフラの整備は喫緊の課題となり、社会保障制度は大きな圧力を受けるでしょう。さらに、異なる文化や背景を持つ人々が大量に流入することで、既存の社会秩序が揺らぎ、排外主義的な感情が高まってしまう危険性も指摘されています。これは、社会不安の増大や政治的な不安定化に直結し、国際社会全体の課題として、私たちの良心に問いかけてくるに違いありません。
静かに、しかし確実に進む「生態系崩壊リスク」
三つ目は、もしかしたら一番見過ごされがちかもしれませんが、極めて深刻な「生態系崩壊リスク」です。生物多様性、つまり地球上の様々な生き物の豊かな営みが失われ、森林や海洋といった大切な生態系が本来持っている機能例えば、水を浄化したり、肥沃な土壌を生み出したり、空気中のCO2を吸収したりする働きが損なわれていくことは、私たち人類の生存基盤そのものを深く揺さぶります。
例えば、際限のない森林伐採や海洋汚染が進めば、地球が持つCO2吸収能力は確実に低下し、それが気候変動をさらに悪化させる悪循環を生み出すでしょう。また、野生生物の生息地が減り、人間との接点が密になることで、新型コロナウイルスのような新たな感染症(パンデミック)が発生するリスクも高まります。このような、いつか来るかもしれない「まさか」の事態を防ぐためには、世界各国が手を取り合い、感染症対策や環境保全に取り組む、強固な「グローバルヘルスガバナンス」の仕組みを築き上げることが、今、まさに求められているのではないでしょうか。
こうして考えてみると、これらの極めて複雑で多岐にわたる課題に正面から向き合うには、国際社会全体が知恵を絞り、協力し合うことが不可欠であると、誰もが感じるところです。しかし、皮肉なことに、上で述べてきたような資源を巡る争いや気候難民の流入問題が、各国間の地政学的な競争をかえって激化させ、国際協調の道を塞いでしまう。この大きな矛盾つまり「協力が必要不可欠なのに、協力が極めて難しい」という状況を、私たち人類がいかに乗り越えていくのか。その答えを見つけられるかどうかに、私たちの未来、そしてこの美しい地球全体の運命がかかっていると言っても、決して過言ではないでしょう。

