第二章 経済と地政学の交錯

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 かつて、私たちは「グローバル経済の相互依存こそが平和の保証だ」と、どこか楽観的に考えていた時期がありましたね。国々が経済的に深く結びつき合っていれば、争うことで自国も損害を被るから、きっと大きな衝突は避けられるだろう、と。しかし、2026年という「今」に目を向けてみると、この前提は大きく揺らいでいるように感じます。現実は、経済的なつながりが深いからといって、必ずしも協力関係が続くわけではない、という厳しい側面を突きつけています。

 むしろ、経済は今や、国同士のパワーゲーム、つまり「地政学的競争」の新たな主戦場と化しているのではないでしょうか。近年、経済的な手段が外交や安全保障の切り札として使われる場面を、私たちは幾度となく目にしてきました。たとえば、ある国が重要な物資の供給を止めることで相手国に圧力をかける「サプライチェーンの武器化」。あるいは、経済的な効率性よりも国家安全保障を優先し、特定の国との技術的な縁を意図的に断ち切る「技術デカップリング」といった動き。そして、貿易制限や金融取引の停止で対象国の経済に打撃を与える「経済制裁」もまた、日常的に用いられるようになりました。

 これらの動きは、これまでどこか明確だった経済と安全保障の境界線を曖昧にし、結果として「経済安全保障」という、現代を象徴する新しい概念を生み出したと言えるでしょう。国家の安定を考える上で、経済的な基盤の確保がこれほどまでに重要視される時代になったのだと、改めて認識させられます。

 中でも、半導体、レアアース、そしてエネルギー資源といった戦略的に重要な物資をめぐる競争は、かつての時代に領土をめぐって繰り広げられた争いと同じくらい、いえ、もしかするとそれ以上に、国の命運を左右する重みを持つようになりました。これらの物資をいかに確保し、自国で生産する能力を維持できるかが、そのまま国家の経済力と安全保障に直結するからです。だからこそ、各国は激しい獲得競争を繰り広げ、自国の経済的な「自立性」をどこまで高めるか、そして、同時に信頼できる「同盟国との協力」をいかにバランスさせるか、という問いが、各政府にとって喫緊の、そして最も重要な戦略的課題となっているわけです。他国に依存しすぎず、かといって孤立することもない、まさに綱渡りのような絶妙なバランスが求められているのです。

 これらの経済的なプレッシャーは、単なる貿易摩擦といった次元を超え、国際関係全体の緊張感を高める要因になっていると感じます。例えば、ある国が特定の技術分野で圧倒的なリードを築いた際、その技術が他国に模倣されたり、軍事転用されたりするのを防ぐため、輸出規制を強化する。これは経済的利益というよりも、国家の安全保障を守るための、極めて現実的な行動と言えるでしょう。また、資源豊かな国が、その資源を政治的な影響力として利用しようと試みる場面も珍しくありません。このように、経済はもはや単なる市場原理に則った動きだけでなく、国家間の力関係、そして未来の国際秩序を形作るための、強力なツールとして機能している。その現実から、私たちは目を背けることはできないのです。