第21章:コミュニケーション力を深めよう

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 今の世の中は、たくさんの情報であふれ、人それぞれ違う考え方を持っています。そんな中で、会社や個人がうまくいき、成長していくためには、「コミュニケーション力を深めること」がとても大切です。ただ情報を正確に伝えるだけでなく、相手の気持ちや背景をしっかり理解し、共感し合えるような、質の高い話し合いが求められています。

言葉の向こう側まで理解する

 これからのコミュニケーションでは、ただ事実を話すだけでなく、言葉に隠された「伝えたいこと」や「気持ち」、そして「目指す未来」を相手と分かち合う力が重要です。たとえば、発表の場でデータだけを並べるのではなく、そのデータが示す未来の可能性を熱意を込めて話すことで、聞いている人の心に響き、行動を促すことができるでしょう。顔の表情や声の調子、身ぶり手ぶりといった、言葉ではない部分(非言語要素)も、メッセージが伝わるかどうかを大きく左右します。自分が知らず知らずのうちに相手に与えている印象を理解し、良いコミュニケーションを心がけることが、深い信頼関係を築くための第一歩です。

じっくり聞く力が信頼を育む

 コミュニケーションというと、つい「どう話すか」ばかり考えてしまいがちですが、実は「どう聞くか」も同じくらい、いやそれ以上に大切です。相手が話している間に、次に自分が何を話そうか考えるのではなく、相手の言葉に集中し、その裏にある本当の気持ちや言いたいことを理解しようと努める「アクティブリスニング(積極的に聞くこと)」がとても重要です。たとえば、部下が仕事で悩んでいるとき、「なるほど」「そうなんですね」と相づちを打ちながら、時に「つまり、〇〇で困っているということですね?」と内容をまとめて確認するだけで、部下は「自分の話を真剣に聞いてくれている」と感じ、安心して本音を話せるようになります。このようにじっくり聞く姿勢が、職場の心理的安全性(安心して話せる環境)を高め、もっと自由に意見を言い合える雰囲気を作ります。

場面に合った伝え方を選ぶ

 今は、直接会って話す会議、電話、メール、チャット、ビデオ会議、さらにはSNSなど、たくさんのコミュニケーション手段があります。未来のコミュニケーション力とは、これらの道具の中から、伝えたい内容や相手、状況に一番合うものを柔軟に選び、うまく使いこなすことです。たとえば、急ぎの連絡や、気持ちが絡むようなデリケートな相談は、誤解が生まれにくい直接会って話すかビデオ会議が良いでしょう。一方、情報を共有したり記録に残したりしたい内容はメールで、簡単な進捗確認はチャットで、といったように使い分けることが求められます。それぞれの道具の特徴を理解し、メッセージが一番効果的に伝わる方法を選ぶことが、コミュニケーションの質を高めるカギとなります。

チームで新しいアイデアを生み出すための話し合い

 会社での新しいアイデア(イノベーション)は、個人のひらめきだけでなく、チームのメンバー同士が活発に話し合うことから生まれます。チーム全員が「これを言っても大丈夫だ」と安心できる心理的安全性がある環境では、誰もが自由に意見を出し、時には変わったアイデアでも否定されることなく話し合えるため、みんなの知恵が最大限に引き出されます。たとえば、週に一度のアイデア会議で、役職や経験に関係なく全員が率直な意見を出し合えるルールを作り、それぞれの発言を前向きに受け止める文化があれば、画期的な新しいサービスや仕事の改善アイデアが次々と生まれるでしょう。

  • 安心して話せる場を作る: チームのメンバーが失敗を恐れずに意見や質問を言える雰囲気を作り、お互いの違いを尊重する姿勢がとても大切です。
  • 良い意見の伝え方: 相手の人柄を否定せず、具体的な行動や結果に注目した意見(フィードバック)をいつも行うことで、一人ひとりも会社も成長できます。
  • 色々な意見を大切にする: 異なる背景を持つメンバーの考え方を積極的に取り入れ、様々な角度から話し合いを進めることで、より根本的な問題解決や新しいものづくりにつながります。

様々な文化を持つ人々と共に働くグローバルな話し合い

 今のビジネスは国境を越え、異なる文化を持つ人々と協力することが当たり前になっています。そのため、言葉が話せる能力だけでなく、文化の違いを理解し、尊重するグローバルなコミュニケーション能力が不可欠です。たとえば、日本のように「言わなくてもわかる」ことを大切にする文化(高文脈文化)と、欧米のように「すべて言葉で伝える」文化(低文脈文化)では、同じ言葉を使っていてもメッセージの受け取られ方が大きく違います。相手の文化的な背景を知ることで、誤解を防ぎ、スムーズに意思疎通ができるようになります。

  • 異なる文化を深く理解する: 相手の国の歴史、習慣、仕事のやり方などを学び、文化的な感覚を磨くことで、不必要な衝突を避け、良い関係を築けます。
  • 言葉以外の伝え方に気を配る: 身ぶり手ぶり、アイコンタクト、人との距離など、文化によって異なる言葉以外のサインを理解し、適切に対応することが求められます。
  • 分かりやすく、はっきり伝える: 異なる言語を通してコミュニケーションをとる場合は、遠回しな表現を避け、誰にでも理解しやすいシンプルで直接的な言葉を選ぶことが重要です。

 インターネットやデジタルツールの驚くべき進化は、私たちのコミュニケーションのやり方を大きく変えました。いつでもどこでも、世界中の誰とでもつながれるようになった一方で、画面越しの会話では、相手の細かい気持ちや表情を読み取りにくいという難しさも生まれました。だからこそ、今、人との心のつながり、つまり「ヒューマンタッチ(人の温かみを感じるやりとり)」がこれまで以上に大切になっています。ビデオ会議中に相手の表情から不安を感じ取ったり、チャットの短いメッセージから相手が忙しいことを察したりするような、デジタル環境でのきめ細やかなコミュニケーション力が問われる時代です。直接会う機会が減った今だからこそ、一度一度のコミュニケーションの質を深く考え、人の温かみを失わない対話を心がける必要があります。

 人事労務を担当する皆様には、この「コミュニケーション力を深めること」を会社全体で進める、とても重要な役割が期待されています。ただ研修プログラムを提供するだけでなく、社員一人ひとりが日頃から良いコミュニケーションをとれるような、会社の雰囲気(文化)と環境を整えることが肝心です。たとえば、上司と部下が定期的に「1on1ミーティング(個別の面談)」を行い、仕事の進み具合だけでなく、将来のキャリアやプライベートの悩みまで安心して話せる場を設けること。部署の垣根を越えた交流を促すための社内イベントやプロジェクトを企画し、普段あまり話さない社員同士が自然に対話できる機会を作ること。そして、経営者自身が正直で開かれたコミュニケーションを実践し、その姿勢を社員に示すこと。こうした取り組みを通じて、情報がスムーズに流れ、問題が早く解決され、そして新しい価値を生み出すことにつながる「話し合いを大切にする会社の文化」を、ぜひ一緒に育てていきましょう。未来の会社を強くする土台は、しっかりとしたコミュニケーション力の上に築かれるのです。

クリティカルポイント

 コミュニケーション力は、ただの技術(スキル)ではなく、人間関係の質、チームの仕事の効率、そして会社が新しいものを生み出す力(イノベーション能力)を左右する根本的なものです。特に、多様化する今の社会では、一方的に情報を伝えるだけでなく、お互いを理解し共感し合える「深い話し合い」をどれだけできるかが、会社の競争力を決めます。道具やテクノロジー(技術)を使うことももちろん大切ですが、その土台にある人同士の信頼関係を築く力が一番重要だと考えるべきです。

反証・課題

 コミュニケーション力の重要性は誰もが認めるところですが、その「深化」はすぐには実現しません。個人の性格や経験、文化的な背景に大きく影響されるため、画一的な研修だけでは限界があります。また、デジタルでのコミュニケーションが広まったことで、文字だけのやり取りが増え、言葉以外の情報(非言語情報)が伝わりにくくなっている現状も課題です。心理的安全性(安心して話せる環境)と効率のバランスを取りながら、社員が本当に「話しやすい」「聞きやすい」と感じる環境を、どのように継続して提供し続けるかが問われています。