第32章:人材を大切にする会社づくりを、みんなで学びませんか?
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会社の成長にとって、そこで働く「人」は一番大切な宝物です。社員の力を最大限に引き出して、会社全体の価値を高めていく考え方を、「人的資本経営(じんてきしほんけいえい)」と呼びます。
でも、これって一つの会社だけでがんばるよりも、色々な会社が手を取り合ってアイデアを出し合い、お互いから学び合う場があったら、もっと素晴らしい結果につながると思いませんか?
良い取り組みはどんどん広めて、日本全体の「人材を育てる力」をもっともっと高めていきましょう。みんなで力を合わせれば、きっと会社も、そこで働く人も、そして社会全体も、もっと豊かになります。
コンテンツ
役立つ情報を教え合い、学びを深める「場」のアイデア
人材を大切にする会社づくりを単なる流行りで終わらせず、本当に会社の文化として根付かせるためには、具体的な行動と続けて学ぶことがとても大切です。そこで、会社が互いに学び、成長を早めるための「場」をいくつか提案します。
経営者フォーラム:トップが本気で語る場
これは、会社のトップである経営者の方々が集まって、人材を大切にする会社づくりが「なぜ大切なのか」という根本的な問いから、「具体的にどう取り組むべきか」までを深く話し合う特別な場です。
経営する人がこのテーマに真剣に向き合い、自ら「やります!」と約束することは、会社を変える上で一番大きな力になります。
例えば、「うちは社員のやる気・愛着を高めるために、こんな投資を始めた」「我が社では、管理職が新しいスキルを学ぶこと(リスキリング)に力を入れている」といった具体的な成功例や、反対に「こんな失敗から学んだ」という貴重な話も共有されるでしょう。トップ同士が刺激し合うことで、より大胆で新しい戦略が生まれる可能性も秘めています。
人事担当者の勉強会:現場の知恵を集める場
次に、毎日社員と向き合い、人事の戦略を一番前で実行している人事担当者のための勉強会です。
ここでは、経営する人が描く大きな夢を、現場でどうやって実現するか、具体的なやり方(How)に焦点を当てます。
例えば、ある会社が取り入れた「社員が自分でキャリアを考えるのを助ける制度」の詳しい内容や、別の会社が進める「色々な人が働きやすいようにする工夫(ダイバーシティ&インクルージョン)」などを、実際の視点から学び合います。
他社の成功例はもちろん、「こういう問題にぶつかっているけれど、皆さんはどうしていますか?」といった正直な悩みや失敗例も共有することで、参加者全員が自社に持ち帰ってすぐに使える具体的なヒントや解決策を見つけることができるでしょう。情報交換だけでなく、専門家を招いて最新の動向や法律の変更について学ぶ機会も作れます。
表彰制度の創設:良い取り組みに光を当てる場
人材を大切にする会社づくりにおいて、特に優れた取り組みをしている会社や部署、あるいは個人を表彰する制度を作ることも、とても有効です。
この表彰は、単に「おめでとう」というだけでなく、その優れた取り組みの内容や結果を広く社会に紹介する機会にもなります。
例えば、「社員のスキルアップ投資に一番力を入れた会社」「仕事と生活のバランス(ワークライフバランス)を達成して目立った結果を出した会社」といった具体的な評価の軸を設けることで、他の会社にとってはっきりとした目標(ベンチマーク)となり、自社の取り組みを良くする上で強いやる気につながります。
表彰された会社は自信を深め、さらなる目標を目指す力となり、社会全体にとっても「人材を大切にする会社づくりってこういうことなんだ!」と理解を深める良い機会になるでしょう。
これらの場は、単に情報を交換するだけでなく、参加者一人ひとりが自分で考え、行動するためのエネルギーを生み出すことが大切です。
みんなで力を合わせる「学びのサイクル」
このような学びの場がどのように動いて、参加者にとってどんな良いことがあるのかを、具体的な「サイクル」として見てみましょう。これは、一方的に情報を与えるのではなく、みんなで知恵を出し合い、共に成長していくための流れです。
ステップ1:まずは率直な「課題の共有」から
まず、最初の一歩は、それぞれの会社が今、社員を育てることや会社づくりでどんな「困りごと」や「悩み」を抱えているのかを、隠さずに正直に話し合うことです。
例えば、「若い社員が辞めてしまって困っている」「新しい技術を覚えさせたいが、どんな研修が良いか分からない」「色々な人が働きやすい会社にしたいが、社内の理解が得られない」など、具体的な課題を共有します。同じような悩みを抱える仲間がいると知るだけで、一人で抱え込まずに済み、解決に向けて前向きな気持ちになれます。
ステップ2:良い例から「成功と失敗を学習」する
次に、人材を大切にする会社づくりで一歩進んでいる会社や、ユニークな取り組みで良い結果を出している会社の具体的な例を詳しく学びます。単に「何をやったか」だけでなく、「なぜその施策を始めたのか」「どんな工夫をしたのか」「どんな問題にぶつかり、どう乗り越えたのか」といった深い部分まで掘り下げて聞くことが大切です。
成功例はもちろん、失敗から得られた教訓こそが、私たちの成長にとって貴重な情報となることも少なくありません。例えば、「あの会社はこんな研修で良い結果を出したんだ」「この施策はうまくいかなかったけれど、その原因は〇〇だったのか」といった発見があるはずです。
ステップ3:活発な「話し合いと交流」で新しい視点を見つける
学んだ情報や共有された課題をもとに、参加者同士で活発な話し合いをします。違う業界からの参加者がいれば、「私たちの業界では当たり前だったけれど、他社では違う見方があるんだ!」と、業界の常識を超えた新しい発想が生まれることも。
グループで話し合ったり、ワークショップ形式を取り入れたりすることで、一方的に聞くだけではなく、参加者一人ひとりが自分の意見を述べ、他者の意見を聞き、新しい視点やアイデアを創り出すことができます。人脈も広がり、いざという時に相談できる仲間が増えることも大きな良い点です。
ステップ4:学んだことを「自社で試して確認」する
この場での学びは、単なる知識で終わらせてはいけません。得られた知識を自社の状況に合わせて具体的にアレンジし、実際に試してみて、その効果を確認します。いきなり大きな改革ではなく、小さな実験プロジェクトから始めるのも良いでしょう。
そして、その試行錯誤の結果を再びこの場に持ち帰り、「こんなことをやってみたら、こうなりました!」と共有することで、参加者全員の「集合知」(みんなの知識が集まってできる大きな知恵)をさらに高めていくことができます。このサイクルを回し続けることで、ずっと成長し続けることが可能になります。
このような学びの場は、政府がリードしても良いですし、業界の団体が中心になっても良いです。あるいは、同じ志を持つ会社が集まって自主的に始めることもできます。
どの形であれ、一番大切なのは、一度きりで終わらせず、続けて開かれること。そして、表面的な情報交換にとどまらず、参加者たちが心を開いて本音で語り合えるような、信頼関係に基づいた深い話し合いが行われることです。
人事の仕事を担当する皆さんには、ぜひこのような場に積極的に参加して、自社の新しい取り組みを発表すると同時に、他の会社から謙虚に学ぶ姿勢が求められています。ビジネス上はライバル関係にある会社同士であっても、「より良い人材を育て、活かす」という共通の目標においては、手を取り合って協力し合える部分がたくさんあります。
日本全体の人材を大切にする会社づくりのレベルを底上げすることは、長い目で見れば、結果として自社の競争力を高めることにもつながっていくはずです。みんなで学び、みんなで成長する。そんな前向きなコミュニティを、私たち自身の手で一緒に育てていきましょう。
成功へのヒント:大切なのは何?
この「学びの場」を成功させるためには、いくつか肝心なポイントがあります。まず、参加者の「やる気」が何よりも重要です。受け身で情報を受け取るだけでなく、自社の課題を積極的に発表し、他社の知識を自社にどう活かすかを深く考える姿勢が不可欠です。
次に、「続けること」も大きなカギです。一度きりのイベントではなく、定期的に開かれ、参加者が安心して意見を言える「心理的な安心感」が高い環境を築くことが、長く続く関係と深い学びにつながります。
さらに、単なる情報交換で終わらず、共有された知識が「具体的な行動」につながり、その結果が再び共有される「実践とフィードバックのサイクル」が回る仕組みをどう作るかが問われます。つまり、運営する側も参加者も、はっきりとした目的意識と、互いに高め合うという強い気持ちを持って関わることが、この場の本当の価値を発揮する条件となるでしょう。
本当にうまくいくの?乗り越えるべき壁とは
このような「学びの場」は理想的ですが、実現にはいくつかの課題も伴います。例えば、会社によっては「ノウハウが漏れる」ことを恐れて、自社の具体的な成功例や失敗談を共有したがらないケースもあるかもしれません。
また、参加者のやる気を維持し、常に新しい刺激を与え続けることも簡単ではありません。毎日の仕事に追われる中で、定期的な参加の時間を確保することも、特に中小企業にとっては大きな負担となりがちです。
さらに、色々な会社が集まるからこそ、課題意識やレベルにばらつきが生じ、話し合いがかみ合わないという状況も起こり得ます。これらの課題を乗り越えるためには、運営する側が参加会社の希望を丁寧に聞き取り、共通の目的意識を持てるような明確なテーマ設定や、少人数でのグループを設けるなどの工夫が必要です。
「情報共有」と「秘密を守ること」のバランスをどう取るか、そして「参加のハードル」をいかに下げるか、といった点が今後の大きな検討課題となるでしょう。

